婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
周囲を気にしてか二人はコソコソ話しているので聞き耳を立てる。幸運なことに私は地獄耳だ。

「一条さん、生きてたの?」

「あははー怒ってる?」軽い男、もとい一条は全くもって悪びれずに言う。

恨みごとを言いつつも、沙織さんの声のトーンはいつもより大分甘めだ。

「仕事が忙しかったんだ」一条は男の常套手段のような言い訳をする。

「今度ご飯行こう、お詫びにご馳走するよ」葛城と同じような解り易い手口でご機嫌を取ろうとする。これも男の常とう手段なのだろうか。

「じゃ、明日がいい」

「あ、明日?」突然の申し出に一条は面喰らっているようだ。

「そう、明日」チラ見すると沙織さんはニッコリと艶やかな笑みを浮かべている。

「でも、明日はちょっと仕事が落ち着かなそうだな」一条は口籠るが「明日じゃないとイヤ」と言って、ガンとして譲らないオーラ全開だ。

「解ったよ。連絡する」一条が折れて肩を竦めた。

「やった」先ほどとは一変、沙織さんは少女のようにはにかんだ。

か、可愛い…。

同性の私でもキュンと来たんだから、軽い男と言えど心を掴まれたに違いない。

その一方で、私はどうだろう。

素直になれず、意地を張って葛城を突っぱねた。

こんなんだから、メンドクサイって思われるのかも…

テーブルの後片付けをしながら、私はガックリ項垂れた。
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