婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「沙織さんって可愛いらしいですね」ちょっと上から目線な言い方になってしまった。

「私はいつも意地を張って甘え下手っていうか。こんなんじゃ、誰からも愛されないんだろうな、なんて思ってしまって」私は慌ててフォローしようとして、いらん事まで口走ってしまう。

「さてはまた葛城少年と喧嘩したんだ?」沙織さんはニヤリと笑みを浮かべる。

「いや…まあ、そうですね」図星をつかれて私は口ごもる。

「何があったの?」沙織さんは目を輝かせて尋ねる。

カフェテリアの一件と、お店まで謝りに来てくれた事、そしてそれを私が突っ張てしまったことをザックり話す。

「いつも放って置かれるのは、私がツマラナイ女だったからだって事がよくわかりました」私は着替え終わりパタンとロッカーを閉める。

「遥ちんからは誘ったりしないの?」沙織さんは化粧ポーチを鞄から取り出し、ロッカーについた鏡を覗きこみハタハタとお粉をはたく。

「む、無理です」

「なんで?」沙織さんはキョトンとして首を傾げる。

「だって、ツマラナイ女から誘われたって嫌じゃないですか」自分で言ってて嫌になる。

「だって婚約者でしょう?」次に沙織さんはビューラーで睫毛を丁寧に上げていく。

「で、でも一緒に食事したとしても話す事とか合わないでしょうし」

私のたわいもない日常を徒然と話したところで、例の「他所行きの笑み」で流されるのが容易に想像つく

「学校が一緒なら共通の話題があるじゃない。それに葛城少年の事も色々聞いてみたらー?」沙織さんはラメの入った赤いリップグロスを塗る。

「好きな食べ物とか、家族の事とか、趣味は何かとか色々あるでしょ」

「…でもそんなこと別に知りたくないし」

「あらぁ、食べ物の好みとかわかったら美味しいご飯作ってあげられるじゃない。趣味や思考が解れば、いろいろ調べて彼との話題も盛り上がるんじゃない?」

「好きでもない男のためにそこまで努力する必要がありますかね」私はハハっと鼻で笑う。
< 70 / 288 >

この作品をシェア

pagetop