婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「好きも何も、結婚するんでしょう?」

沙織さんの一言に私は絶句する。

「どーせずっと一緒に生活するなら、ツマラナイ女って思われるより大事にされた方がいいと思うけどな」

ごもっとも。返す言葉がございません。

「がんばって、遥ちゃん」

沙織さんは、呆然とする私にシャネルの香水CHANCEを一吹きする。ふんわりと甘いフローラルの香りがした。


二人揃って裏口から外へ出て行くと、店の前に一条さんが立っていた。

「沙織お疲れ。新入りちゃんも」一条さんが人懐っこい笑みを浮かべ、声をかけてきたので、私はぺこりと頭を下げる。

「食事は明日じゃなかったでしたっけ?」

「今日も、行くの」沙織さんは嬉しそうにデレっと頬を緩ませる。だからあんなに化粧直しが入念だったのか。

「じゃあ、遥ちんお疲れー」沙織さんは励ますように私の肩をポンと叩くと、小走りで一条さんの元へと駆け寄って行く。

二、三言、話すと二人はにっこり笑って見つめ合う。沙織さんは自然に腕を絡ませると仲睦まじく寄り添うようにして、夜の街へと去って行った。

あんな風に上手に甘えられたら大事にしてもらえるのかな。

二人の後ろ姿を見送りながら小さく溜息をついた。
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