婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
夕食後は涼しいリビングで、大人達は寛ぎながらお酒を嗜んでいる。

双子達は遊び狂っていたので、食事のあと、お風呂に入るとコロっと眠ってしまった。

ちなみに、ママも双子達に付き添い部屋へ戻った。

パパ達が飲んでいる赤ワインを私は遠くからうっとりした目で眺めている。

すっごく美味しそう。きっと高いやつなんだろうな。

私はごくりと生唾を飲み込む。

芳醇な香りに酸味と渋みが融合したあの複雑な味わい… 

あの泥酔した夜以来、すっかり赤ワインの虜になった。

しかし未成年なので、さすがにこの場で飲む訳にも行かない。

仕方なしに皆さんにワインを注ぎつつ、香りだけでも楽しむことにした。

「ところで随分立派なピアノですね。本当に弾けるのですか?」パパが無邪気に尋ねる。

空気読めや…私は心の中で舌打ちする。

ピアノの事には触れないでほしい。

「勿論弾けますよ」葛城父はニッコリと微笑む。

「あら、そう言えば匠さんの姿が見えませんねぇ」ピアノが弾けるのか話題を振られる前に話題をすり替えようとする。

「なんだ、遥。婚約者の姿がないと不安なのか?」お爺ちゃんが冷やかすように言う。

「そ、そんなんじゃありません」私は頬を赤らめた。

「うーん、久しぶりに匠のピアノが聞きたいわねぇ」そう言って、葛城母はコクリとお上品にワインを飲む。

「ちょっと探してきますね」私は逃げるようにその場を立ち去った。
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