婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
リビングを出た所で轟さんとすれ違い、声を掛けられる。

「おや、遥さんどちらへ?」

「匠さんを探しているんです。見かけませんでした?」

「先ほど外へ行かれましたよ。今日は月が綺麗なので散歩にでも行かれてるのかもしれませんね」

「ありがとうございます」私がペコリと頭を下げると、お気をつけて、と言って轟さんは二コリと微笑んだ。


屋外へ出ると少し冷やりとする。

夜空を見上げるとぽっかりとまあるい月が浮かんでいた。

わぁ、綺麗。

東京ではあまり気付かなかったけど、こういった灯りの少ない場所へ来ると満月の夜は随分明るいのだな、と気付かされる。

懐中電灯持って来なかったけど足元を月明かりが照らしてくれるので大丈夫そうだ。

私は葛城の姿を探し、建物の周辺をフラフラと歩く。

家の裏手まで来るとサラサラと流れる小川を発見した。

川べりに添って、道が整備され、遊歩道のようになっているようだ。

私邸でここまで手の込んだ造りをしているなんて、改めて驚かされる。

本当ホテルみたいだわね。

感心しながら遊歩道を歩いて行くと微かに人の話し声が聞こえて来た。

葛城さんかしら?

私は暗がりに目を凝らして、声の方へ歩いて行くと、遊歩道の途中に置かれたベンチに葛城が座っているのが見えた。

耳元が光っているので、どうやら電話で話しているようだ。

私は足音を立てずに、木陰からそぉっと距離を縮める。

べ、別にこれは立ち聞きする訳じゃないんだけどね…と、自分に言い聞かせながら。

葛城の4,5m後方の木陰に身を顰め、ジッと耳を澄ました。

ちなみに私は地獄耳である。しつこいようだけど。
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