歪な愛のカタチ
仁と耕太。
毎年この時期になると、会社で安全確認週間っていうのがある。
世の中的に、交通安全週間とか、火災予防週間っていうのがあるのと同じで、いろいろ気をつけましょーね、って感じのヤツ。
あ、勿論、こんな適当なんじゃなくて、会社的にはもっと目的を持ったしっかりしたものなんだけど。
実際になにかをする訳じゃないんだけど、その年の標語を朝礼でみんなで声に出して読む、くらいのもんだ。
そしてその標語というのがまた問題で、社員全員が必ず一つ以上提出する、っていうのが決まり事になっているのだが、忙しさにかまけて知らん顔をしていたら、今日が最終日ですので必ず提出してください、ってメールが来ていたらしい。
メールは見たけどそのままいつものように営業に出て、すっかり忘れてたんだけど。
「仁さん、標語出しました?」
昼兼休憩で立ち寄った喫茶店で、食後の一服の最中に後輩の荒居耕太の言葉。
「あ、やべっ、忘れてた」
「やっぱり。総務からメール来ませんでした?」
「来てた来てた。お前も出してねぇの?」
煙草を揉み消しながら問い掛けると、耕太は紫煙を燻らしながら深い溜息を吐き出した。
「だって、毎年すげぇ悩むし…なんも思い付かないんですけどー」
もう参った、っていう耕太を見ながら、俺はコーヒーに口を付けた。
「俺さ、今年は絶対に、安全日、って言葉使いてぇんだよ」
「また言ってる」
何度も同じ事を言ってる俺を覚えてる耕太が、完全に苦笑しつつ俺にチラッと視線を寄こした。