魔王の娘が勇者になりたいって変ですか?
「モルテだけには気をつけろ」

 バルドが再びそう言った。

「名前と噂を聞いたことがあります。
 どうしてテオス側に?」

 万桜が、顎に手を当てて考える。

「それが、わからない……
 部下や海地獄の住人たちがいる街が崩壊している。
 恐らく、いずみの仕業だろう」

「そんな……
 私が聞くいずみさんは、そんな人じゃないわ!
 部下想いで優しい人だって兄様が言っていたわ!」

 万桜が、そう言うとバルドがつらそうに答える。

「俺たちもそれを聞いて驚いている。
 だが、街に残っていた魔力痕は、いずみのものと解明された。
 魔力痕は、指紋と同じように人それぞれの違いがある……
 可能性は、99.8%だそうだ」

「そんな……」

 万桜が、うつむく。

「まぁ、捕まえて事情を聞けばいいだけだ」

 かみさまが、そういうと万桜がつらそうに言葉を流す。

「いずみさんは、魔界でも名の知れた魔族よ。
 簡単に捕まえれると思えないわ……」

「それでも戦うんだ。
 それが、戦争ってやつだ」

 かみさまが、そう言うと焔が言った。

「まぁ、なんとかなるっしょ」

 するとシエラが、言う。

「ちょっと焔!
 そんな無責任な!」

「無責任じゃない。
 俺たちが、倒さなければ誰が倒すんだ?
 俺は覚悟を決めて、この戦争に参加した。
 母さんも父さんも、カリュドーンの猪で死んだ。
 俺に帰る場所はない。
 後ろをみても何もない。
 なら、前を向いて歩くしかないんだ」

「焔……」

 シエラが、焔の眼をまっすぐと見ている。
 すると病院から面会時間終了のアナウンスが流れる。

「んじゃ、万桜、かみさま。
 帰るぞ。晩飯に焼き肉を奢ってやろう」

「ほう。
 それは、良き提案だ」

 バルドの言葉に、かみさまの目元が緩む。

「その前に兄様に連絡してもいいですか?」

 万桜が、バルドにそう言うとバルドはうなずいた。

「連絡が取れる家族がいるのなら連絡してやれ。
 きっと心配いているだろうからな」

「でも、それが連絡がつかないんです。
 メールも返事が来ませんし携帯も留守電ですし……」

 万桜が、そう言って小さく震えた。
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