初恋 二度目の恋…最後の恋
 中垣先輩はフッと表情を緩め、ビールをジョッキを唇に当てる。そして、落ち着かせるかのように一口飲んで、軽く息を吐くと、そこにはいつもの中垣先輩がいた。さっきの微かな甘さが消え、いつものキリリとした雰囲気が中垣先輩を包む。


 でも、この方が私はホッとする。


「表情が豊かになった。自分の意見をしっかりと持ち、それを自分の言葉で表現する。俺は真面目な坂上も好きだったが、今の坂上もいいと思う」



 そんなことを中垣先輩から言われるとは思わなかった。私は自分では分からないが、営業一課で変わったのかもしれない。胸を張って言えることは、私はみんなに大事にされているということ。


 それだけは間違いない。


「営業一課の人にはみんな優しくしてもらってます」


「これで心配しなくていいな。本社営業一課なんて場所は色々な利権の渦巻くところだ。そんなところで坂上が呑まれはしないかと心配していた。でも、今日会えて安心した。研究所に戻ったら所長にも言っておく。所長も坂上のことを心配していた」


 所長は私が本社に移動できるように尽力してくれた。私のマンションとお祖母ちゃんの病院と距離的に一番近いのが本社だった。仕事も本社ならたくさんの社員がいるから、都合が着きやすいだろうと。そんな優しさを私は忘れてない。


「所長によろしく言っておいてください。本社営業一課は色々覚えることが多くて大変な時もあります。でも、今は今の仕事が楽しくなって来ています。今は、営業一課で頑張るつもりです」


「ああ。分かった。でも、俺も諦めない。いつでも帰ってこい」


 私は中垣先輩の言葉に息を呑んだ。


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