初恋 二度目の恋…最後の恋
 中垣先輩の強い言葉にドキッとしたのは私の心に研究という仕事に未練が残っているからだった。本社営業一課での仕事は楽しくなってきている。それでも、ずっと頑張ってきた研究という仕事は私にとっては大事だった。


 そんな私の気持ちに気付いたのか中垣先輩はフッと視線を逸らし、目の前にある料理に箸を付ける。味わいながら少しだけ口の端を上げた。


「この店の料理は本当に美味しい。坂上がこんな店を知っているとは思わなかった」


「高見主任に連れて行って貰った店なんです」


「そうか。いい上司に巡り合えて良かったな」



 食事をしながら中垣先輩は優しく微笑む。ビールも飲みながらだけど、さっきよりは飲むピッチが遅くなっている。研究室での真面目な顔しか知らなかったから、こんなにも優しい顔で笑うなんて思わなかった。好きと言われた後も先輩の態度は変わらなかった。その後は深く研究所に誘うような話はせずに、今の研究の話をしてくれた。


 研究から遠のいたとはいえ、中垣先輩の話はやはり私には興味深いことだった。色々な質問をしていると、時間は飛ぶように過ぎ、既にこの店に入って三時間は軽く過ぎていて時間を見て驚く。


「そろそろ帰ろうか。今から今日の研究発表の書類を纏めないといけない。悪いがマンションまで送れないがいいか?」


 先輩が今から仕事をしないといけないとは思わなかった。それなのに私の知りたいことを丁寧に教えてくれる。研究以外には言葉が少ないけど、本当に優しい人だと思う。


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