初恋 二度目の恋…最後の恋
「疲れている時は甘いものがいいんだよ」


 折戸さんから貰った飴を口に入れると広がるイチゴの味が甘くて美味しい。顔が緩むとそれを見つめる折戸さんがいた。客先から帰ってきたのなら、この時期、汗を流しながら帰ってくる人が多いのに、折戸さんに関してはまるでエアコンの完備されていた場所から帰ってきたかのように涼やかだった。


『暑い』と言いながらスーツのジャケットを脱ぐけど、それさえも爽やかに見える。この点に関しては小林さんとは真逆だった。小林さんは滝のような汗を流しながら帰ってくる。



「美羽ちゃんは笑ったほうがいいよ。さてと、俺もパソコンを立ち上げないと」


 そう言いながら、バッグの中から分厚いファイルを取り出す。そして、その一番上にあるクリアファイルには見慣れた用紙が入っている。契約書だった。ここにきて何度見たことだろうと思う。


「契約。上手くいったんですね」


「うん。運が良かった。たまたまだよ」


 そういい残して自分の席に座ると自分の仕事を始める。パソコンの上を綺麗な長い指が軽やかに踊っていた。運がいいだけで成果は上がらない。それは私が営業一課に来て知ったことだった。


「コーヒー淹れましょうか?」


「ありがとう」


 私は薄めのブラックコーヒーを淹れるとパソコンの前で成果報告している折戸さんの机に置いたのだった。



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