初恋 二度目の恋…最後の恋
 肌に焦げる様な太陽の眩さが影を潜め、徐々に優しさと切なさを増してくる。暑い夏も終わりを告げ、少しずつ空気に秋の香りが混じりだした頃、私にも営業一課にも大きな衝撃が走った。いつかはと思っていたけど、まさかこんなに急に起きるとは思いもしなかった。


 私の勤める会社では年に二回、大規模な転勤がある。

 
 四月と十月の二回。春と秋に行われる。その秋の人事で折戸さんの転勤が発表されたのだった。折戸さんの実力は高見主任のみならず、課長、部長まで認められている。折戸さんは一課でも生え抜きの社員で将来の幹部候補だ。


『営業一課 折戸翔(オリトショウ)フランス支社。営業生産部門主任に任ずる』


 優秀な営業一課のものはいつかは転勤の話があるとは思っていた。でも、それが今までいつも優しくしてくれた折戸さんということに足元から揺れる気がした。折戸さんがいなくなるという現実は、私から冷静という言葉を簡単に奪う。


「折戸さん…あの」


 私が折戸さんの顔を見つめるとニッコリと笑った。当の折戸さんは既に打診があっていたのだろう。驚きもせずに冷静に人事を受け入れているみたいだった。それにしても国内ならともかくフランス支社だなんて…。実際にフランスに主任としての転勤は本社でも類を見ないほどの出世だと思う。


 私は喜ばないといけないのに…。
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