強引男子にご用心!

そう思っていたけど、思っていたより普通な陰険さで笑えた。

ちょいちょい総務部を覗く人が増えたって感じ。

ちょいちょい覗いては、こそこそ囁いて、たまには面と向かって来る勇気ある人もいたりして。


「すみません。ボールペンを1ダースお願いします」

「受領書にご記入頂けますか?」

「貴女が伊原さん?」

見ると綺麗で若いお嬢さん。

長い髪は綺麗な栗色だし、化粧は品よくナチュラルメイク。

制服ではなく、これまた品の良いスーツ姿だから……どこかしら。

手元の受領書を見て、秘書課の文字に苦笑した。


「貴女……身の程を知っています?」

「どのようにですか?」

「勘違いしないことね」

勘違いねぇ?

「意味が解りかねます」

「いいから。葛西さんに近づくなんて止めなさい。これは忠告」

別に、私から近づくなんて事はないと思うけども……

「では、葛西さんに、そう仰れば宜しいかと存じます。だいたい、知り合いの友達とご飯食べるだけで目くじら立てられましても困りますが」

「知り合い……?」

「ボールペンは黒ですか?」

「え、ええ」

「では、受領書の黒の項目にチェック入れてください」

「あ、貴女……何様のつもり?」

「何様と言いますか、総務部の伊原ですけれど」

「そこは華子様って言わないとなぁ」


いいタイミング過ぎない?


顔を上げれば磯村さんがいて、ドアの隙間から千里さんと牧くんの顔も見えた。

……余計なお世話焼きはどこにでもいるものね。


「何かご入り用ですか?」

「いや? 修羅場だからって言われて見にきた」

「修羅場でも何でもないですよ。単に言いがかり言われてるだけで」

「葛西がちょっかいかけたって?」

「ちょっかいまでかけられてませんよ。ただ、金曜の事で何か持ってくるか聞かれただけで」

「ああ、それは災難だ」

「本当です」

「葛西を呼ぶのは考えもんだったかな。あいつも空気読まないから」

貴方ほどじゃないと信じたい。

溜め息をつくと、秘書課のお嬢さんが私と磯村さんを交互に見ていた。

「磯村さんが、葛西さんの、知り合い……?」

「同期入社ですからね」

それはそれは爽やかな笑顔を振りまいて、磯村さんが答える。

「秘書課の……確か、観月さんでしたか」

「違います!」

そう言うなり、秘書課のお嬢さんはボールペンの12本入った箱を奪って出ていった。

「総務部のお局様に喧嘩売るなんて、面白い女性だ」

「すみませんね。総務部のお局様で」

そう言って二人で受領書を覗き込む。


秘書課、観月結香と言うサイン。


あのお嬢さんは、どこか抜けているらしい。
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