強引男子にご用心!
「しかし……あしらいが慣れてますね」
「ええ。以前も同じような目にあいましたから」
磯村さん時にね。
「ああ。それも災難でしたね」
「総務部の皆も慣れちゃってます」
我関せず仕事を続ける面子を振り返り、また磯村さんをちらりと見る。
「それで、本当に野次馬でしたら、私は仕事に戻りますけど」
「ああ。ついでにA会議室の鍵返しに」
「あ。私が当番なので、お預かりします!」
千里さんがピョコンと手をあげて、磯村さんから鍵を受けとった。
「どうも。じゃ、失礼しました」
爽やか笑顔を振りまいたまま総務部を出ていく磯村さんを見送り、デスクに戻ると主任に笑われた。
「伊原さん。もしかして、噂通りに磯村さんと付き合い始めた?」
「唐突ですね」
「うーん。伊原さんと会話するような人は滅多にいないから」
「……主任とも会話しているじゃないですか」
「俺とは一言で終わる自信がある」
どんな自信ですか、それは。
とりあえず、そんな感じで、ある意味は和やかなうちに一日の仕事は終了した。
一日の終わりもゆっくり。
ロッカー混むしね。
それでも最後にはならないように部署を出て、それから着替えを終えて社員入口に向かう。
「華子~?」
「あれ。どうしたの?」
社員入口で水瀬が手を振り、にこやかに立っていた。
「華子のうちに行くから、と思って待ち合わせ」
いやいやいや、待ち合わせしていないからね?
「ついでにシャワー借りようと思ってね」
「シャワー?」
「まさか、消毒薬の臭いプンプンさせて磯村さんのお宅に上がるわけにはいかないでしょう?」
「嫌な匂いだとは思わないけれど」
「だから、それはあんただけ」
「いいけど。電車空くの待つよ?」
「まぁ、試練だわね」
言いながら、駅に向かって歩き出す。
「でもま~。よく付き合うようになったね」
「うん?」
「磯村さんと、最初は毛嫌いしてそうだったのに」
「……うん。まぁ、いろいろとね」
短い間に色んな事がありまして。
「なんか。触れるようになってきたし」
「ああ。うん。それは薄々解ってた」
……うん?
「突き飛ばすって、あんたやったことないもの。話聞いた時、やるなぁと思ったわ」
突き飛ばす?
「や。だってあれは……」
「どちらかと言うと、消極的だったあんたに、行動させるなんてすごいわ」
……水瀬、どこを感心してるかね。
水瀬らしいと言えば水瀬らしいけど。