強引男子にご用心!

「あの人は全くもって、私の好みじゃないけど」

「水瀬の好みそうな男子は解らないけど」

「可愛い仔犬系は駄目ね。いじめてる気分になるから」

「水瀬は女王でおじさんだから」

「あんたよりツンツンしてるのは認めてあげるわ」

ホームにつくと自動販売機でココアを買って、ウェットティッシュで拭きながらベンチに座る。


「華子。29過ぎると太るわよ~?」

「いいわよ」

「よくないわよ。彼氏が彼氏なんだから、いつか剥れるわよ?」

むかれる……って。

「水瀬、あんたは女性なんだから、公でそんな事を普通の音量で言うのはどうなの?」

「大丈夫よ。こんなホームの真ん中で、人の会話に聞き耳たててる人は希だから」

「たまにはいるでしょうが」

際どいようで際どくない会話を楽しみながら、空いてきた電車に乗ってマンションまで帰る。

買い物はほとんど昨日のうちに終わらせているし、仕込みはバッチリ。


「先にシャワー使っていい?」

水瀬は苦笑しながら指先をヒラヒラさせる。

「大丈夫よ。私は何か手伝う?」

「ううん。ほとんど仕込みしちゃってるし。大丈夫」

ピザは磯村さんの部屋で仕上げるし、大丈夫でしょ。

「ところで、磯村さんの家って近いの?」

「うん。近い」

お隣さんだしね。


それぞれシャワーを浴びて、着替え終わる頃に、磯村さんからラインがきた。

「皆、集まってるみたい」

「でも、どうやって運ぶの?」

おでんが大量の土鍋と、小さめに作ったピザの生地と具材類、それから即席オードブルとサンドイッチを見て水瀬は首を傾げる。


「荷物持ち来てくれるって」

言った時にインターホンが鳴って、ドアを開ければ磯村さんが顔を出した。

「ああ、女医さん来てたんだ」

「うん。飲み物足りるかな?」

「足りるんじゃねぇ? ウィスキーと日本酒持参の奴がいるし。一応、ソフトドリンク系も仕入れといた」

「……御曹司ですね」

「本人に言ったら苦笑されっぞ?」

「さすがに言いませんよ」

一番重い土鍋を磯村さんに持たせて靴を履く。

「水瀬、行くよ~?」

「え。歩いて?」

「隣だし、歩くよ?」

「え。磯村さんてストーカーだったの?」

「ちげぇ。たまたま引っ越した先が、華の隣だっただけだ」

磯村さんに睨まれて、さすがの水瀬も肩を竦めた。

「つーか。お前、鍋とか食えんの?」

え? 私?

「まさか。水瀬のリクエストです」

「女医さん鍋物好きなのか?」

「焼酎あれば嬉しいですね」

と、水瀬が言えば、

「ねぇよ、そんなもん」

断言されて、水瀬はふくれた。
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