強引男子にご用心!
そんな感じで始まった宴会は、最初は他人行儀に始まったけれど、時間が経つと打ち解けたものになっていった。
「まさか、伊原さんが磯村と付き合うようになるとは思っても見ませんでした」
打ち解けても敬語の葛西さん。
私も、日本酒片手に、おでんを食べる葛西さんを見るとは思いませんでしたよ。
「葛西はモテるからいいけど。いいなぁ。俺も彼女欲しい」
「もう少し常識わきまえればできんじゃねぇの?」
そう言いながら山本さんにビールを注ぐ磯村さんは、絶対に人のことは言えないと思うの。
そんな男性陣を見ながら、ソファーに足を組んで寛いでいる水瀬もすごいけれど。
「華子もそろそろ落ち着いたら?」
「何を?」
何をどう落ち着けと?
水瀬は目を細めて苦笑する。
「うん。そろそろ座れば? キッチンで飲んでないで」
うーん。
ソファーに座る水瀬。
床に胡座の男性陣。
……どこに座れるかね?
「……華」
おいでおいでする磯村さん。
ソファーと自分の間にスペースを作ってくれた。
「ありがとう」
「つーか、なんでお前、眼鏡してんの?」
顔を見合わせて、笑われた。
「え? 何となく?」
「プライベートくらい外せばいいだろうに」
何となく会社の人が来るし、何となく人見知りして、眼鏡をかけると何故か落ち着いた。
だからなんだけど。
「伊原さん。伊達眼鏡ですか?」
葛西さんの静かな視線に身構える。
「え、あの。まぁ」
「目が悪くないのに、眼鏡をかけると視力が落ちますよ?」
「そうなんですか?」
「せっかく視力も悪くないのに、悪くする必要はありません。視力が悪いと色々と見逃しますよ」
力強く言われて、少し退く。
「……実感こもってますね」
「ええ。思うところありまして」
「ハンカチの君か」
「ハンカチの君だよね?」
磯村さんと山本さんに見られて、眉をしかめる葛西さん。
「ハンカチの君ってなぁに?」
水瀬にも言われて、葛西さんがますます眉をしかめる。
「水瀬さんには関係ありません」
「えぇ? でも、きっと私だけ除け者状態じゃない?」
葛西さんは私の愛想笑いを見て、次に磯村さんを睨む。
それから眼鏡を拭き始めた。
「……こちらの事です、お気になさらず」
「ますます気になるじゃないの」
「水瀬さんは、大人しくないので言いたくないです」
「え? 全く意味不明なんだけど?」
水瀬は大人しくない。
確かに妙にしっくりくる言葉だ。
医務室にいる時はそれなりに大人しくしている。
でも、静かでもない。
静かでもないけど、うるさくはないよ?
「まぁ、色々あんだよ。女医さん」
磯村さんが苦笑したら、水瀬は不服そうにしながらも首を傾げた。
「磯村さんはプライベートでは、柄が悪いんですね」
「あんたは華の友達らしいし、気取ったところでしょうがねぇし?」
「伊原さんには、ずっとそんな感じだったよね?」
山本さんの言葉に頷く。
思えば、誰かがいる時以外は口悪いよね。
まぁ、うん。
出会い方が出会い方だったしねぇ。
気取ったところでしょうがないしねぇ?
静かに見つめあって、それからいきなり眼鏡を取り上げられた。