強引男子にご用心!
「私ね、貴方のその慇懃無礼な所が好きになれないわ」
「僕も、貴女の小うるさい所が好きではありません」
「貴方に私の何が解るっていうのよ。たかだか毎月、顧問の定期検診の時に顔会わすくらいでしょうが」
「ええ。そうですね。いつも裏声で話す所しか存じ上げませんでした」
「裏声じゃなく地声です」
「今は、低い声ですね」
「すみませんね。怒ると低くなるみたいです」
「なるほど。僕はあの時、怒られていましたか」
「そりゃそうでしょうが。コンタクトで目を傷つける人もいるのよ。貴方、意地はって人のこと邪険にしてくれたじゃないの」
水瀬がそう言いながら葛西さんに指を突きつける。
だけど葛西さんはふわりと笑って、
「やっと見つけました」
突きつけられた指を掴んで引き寄せると、目を丸くした水瀬を覗き込む。
「僕とお付き合いしてください」
「はぁ? あんた馬鹿なの? それともマヌケなの?」
「馬鹿でもマヌケでもありません。真剣に申し上げております」
「だから言ってるんでしょうが。それともあんたマゾ?」
「考えた事はありません」
「ちょっと、磯村さん。この人どうにかしてよ!」
水瀬が磯村さんを振り返り、磯村さんは腕を組みつつニヤッと笑った。
「いや? 人の恋路に首突っ込むと、痛いし」
「馬はいないから! 非常識な人が、何を常識的な事を言ってるんですか」
「その気がねぇなら振ればいいじゃねぇか」
「振られるのはお断りします」
葛西さんが真面目に言って、水瀬の手を握る。
あ。わかった!
「水瀬が葛西さんのハンカチの君なんですね!」
「おー……相変わらず鈍いな、華」
「鈍くありません。けど、鋭くもありません」
手を離せ離さないと騒いでいる二人を眺めつつ、山本さんは私を見た。
「伊原さぁん。僕にも誰か紹介して」
「……残念ですが、難しいです」
「ええぇ。葛西だけズルい」
ズルいと言われましてもねぇ。
「私が紹介したわけではありませんし」
だいたい、話を聞いていたら、水瀬と葛西さんは実は顔見知りらしいし。
「それより磯村さん。私より葛西さんの方が鈍いと思うんですけど!」
磯村さんを睨むと、
「え。食いつくところ、そこ?」
びっくりされて、思わずへらっと笑った。