強引男子にご用心!

「つぅか、これだけ近くて平気になったか?」

「磯村さんなら大丈夫……かもしれない。帰ってからシャワー浴びたでしょう?」

いつもはそれなりにセットされている髪が今は無造作。


「ふぅん? なら、コート脱いでからにすれば良かった」

「そ、それはそれで嫌だけど」

「案外くびれあるなぁ」


どこ触ってるんですか!

無言で磯村さんを引き剥がして、お湯が沸いたからお茶の用意を始める。

基本的に、磯村さんはスケベだよね。

それが、普通なんだろうけどね。

コートを脱いでソファーに座る磯村さん。

視線で追いながらそう思う。


「で、今日は、一体どうした?」

「え? あ。今日は受付に怒鳴り込みがあって、少し残業だったの」

「ああ~。賠償だの裁判だと騒いでたおっさんか」

あれだけの騒ぎだし、耳に入るよね。

「ええ。誤解があったようなので、理解して頂くのに時間が……」

「それでこの時間?」

「ある程度の時間が過ぎると、また混むの。電車」

呆れたような顔をされても困るけど、結構死活問題だったりする。

寒いし、なかなか空かないし。


「……知り合いの車なら乗れるんだったか?」

「慣れてる知り合いなら。両親の車と、水瀬の車なら乗れる」

「車は実家だな。このマンション駐車場ねぇし。駅前は馬鹿高いし」

「磯村さん。免許あるんだ?」

「そりゃあるだろう。営業は」

そうか、そうだよね。

考えてみれば、結構必須だよね。

管理してるくせに、誰が使用するのかまで総務部で確認してないしな。


お茶をいれて磯村さんの隣に座ると、じっと見つめられた。


「で、いい加減言え」

睨まれて、睨み返す。

「唐突過ぎて、意味不明だから」

「葛西から、なんかやらかしたって言われた」

ほう。

「つうか、水瀬さんに言ってこいって言われたらしいが、あんたに悪いことしたの一点張りで要領が得ない」

ほほぅ。

……そうだね。
磯村さんは聞けちゃう人だよね。

聞けちゃう人は聞くよね。

しかも、要領が得ない話なら。

さて、どうするか……

「たぶん、お昼休憩の時の話だと思うけど、済んだことよ」

「昼? なんであんた葛西と一緒になるんだ? あいつ外食多いだろ」

「水瀬に言い寄ってるんじゃない? 医務室によく来る」

「あんたまた医務室で飯食ってんの?」

「葛西さんのせいで、未だに女子社員に睨まれるの。さすがにお昼くらいは落ち着いて食べたい」

ブツブツ呟くと、何となく納得したような、納得しないような顔をされた。

「それで俺に言ってきたわけ? あいつ」

「私が解るわけがないでしょう」

「確かにそれなら済んだことだろうが……」


磯村さんが言いかけて、



ぐぅぅ~と、私のお腹が鳴った。


無言で磯村さんは眉を上げ、


ふはっと笑う。
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