強引男子にご用心!

「鍵かけねぇなら、ここでキスとかするぞ?」

ガチャリと鍵をかけて磯村さんを睨み付けた。

「脅しはよくない」

「脅しになるならまだまだだな」

何がですか。

磯村さんはふっと笑って無言でエレベーターに向かうから、そのまま後ろをついて行く。

「どこに行くの?」

「んー。どこにすっかなぁ」

「何も考えてないの?」

「まぁ……考えてねぇ訳でもない」


どっちだ。


無言でエレベーターに乗り、そのまま連れていかれたのは近くの公園だった。


「ほれ」

袋ごと手渡されたのは、来る途中に寄ったコンビニで買った肉まん。


冬の公園は、休日だからか子供の姿もない。

木の葉ひとつない木々に囲まれた、古ぼけたベンチ。

そこに座ってホカホカ肉まんを食べる、妙齢の大人な二人。


……シュールな気がする。


「寒いです」

「だから暖かい格好しろって言った」

「だいたい、どうして公園」

「誰もいないし、混んでないだろ?」

何かが根本的に違う気がする。

「それは寒いからです! こんな寒いなか、デートに公園は選ばないです」

「定番じゃねぇか」

「定番だろうが無かろうが、風邪引きますから! 絶対風邪引きます!」

「まぁ、腹空かせたまま、歩き回る訳にもいかねぇだろ。食ったら移動するから」

言われて、無言で肉まんを頬張る。

コンビニの肉まん、はじめて食べたかもしれない。

食べ終わる頃、磯村さんのスマホの着信音が鳴った。


「ああ。着いた? あ、いや、そこにいていい」

言いながら磯村さんは立ち上がり、視線で立つように促すから、ベンチから立ち上がって、敷物替わりの紙ナプキンをコンビニの袋にまとめた。

歩きだした隣を歩きながら、途中にあったゴミ箱にコンビニ袋を捨てる。

公園の入口に、白黒二台の車が停まっていた。


「遅いぞ。達哉」

そう言ったのは、黒の車から降りてきた男の人で、

「今、着いたばかりだろうが」

何気なく答えたのは磯村さん。

知り合い?

首を傾げたら、

「あれ。兄貴」

言われてみれば、磯村さんによく似ている男の人を指差し、

「彼女」

頭に手を乗せられて……


「まともに紹介しろや」

磯村兄に磯村さんが怒られた。

「……あれが磯村悠哉。俺の兄貴で実家近くのコーヒーショップの店長やってる」

それから磯村さんは私を指差してニヤリと笑う。

「伊原華子」

「はなちゃんか。よろしく」

お兄さんはニコニコ右手を差し出してきた。


「…………」


大丈夫。磯村さんのお兄さん。

大丈夫、大丈夫、大丈夫。

言い聞かせていたら、


「あ。もしかして潔癖?」


何故、そう思われましたか?
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