強引男子にご用心!
相当変な顔をしていたらしい。
磯村悠哉さんは、ふわりと笑うと軽く手を振る。
「うちのカミさんも昔、そんな感じだったから。うちのは全く触れなかったけど」
そうなんだ。
すると、磯村さんは私の頭を勝手に回転させて、後ろの白い車を示す。
「たぶん、あそこに乗っているのが兄嫁のカナミ」
フロントガラスが反射してよく見えないけれど、手を振っているらしい。
……磯村さんが、前に言っていた“親戚の潔癖症の人”ってことかな?
兄嫁さんだったんだ。
それで?
「俺の車なら乗れるか?」
運転してきたらしいお兄さんからキーを受け取り、磯村さんが助手席を開けてくれた。
「掃除はカナミがやったから、チリも埃もないよ。なんせ、シート外して洗剤で洗っていたし」
お兄さんの言葉を聞きながら、磯村さんを見上げる。
「……黙ってっと、放り込むけどOK?」
そんなわけがない。
ないけどさ。
「具合悪くなったら停めてくれる?」
「吐くならビニール袋でも用意しておくか?」
「持ってる」
「用意がいいな」
「磯村さん、いつも突然だから。何かの時の為に常備してる」
そう言いつつ、尻込み。
「わ、私、さっき、ベンチに座ったんだよね」
「風呂敷みたいなの敷いてただろう」
「でも……」
「つべこべ言ってるど、さっき言ったこと実行するぞ?」
無言で車に乗り込み、無言で睨みあう。
「……お前ら、どんな彼氏と彼女だよ」
「兄貴に言われる筋合いねぇよ。それより、そっちはどこ行くんだ?」
磯村さんたちの会話を聞き流しつつ、車内をキョロキョロ見回す。
うん。変な臭いもないし、どちらかといったら石鹸の匂いがする。
座席をポンポン叩いても、舞い上がる埃もないし、足元に泥もない。
掃除完璧だ。
安心してシートベルトをつけると、呆れた様な視線が降ってきた。
「お前、縄張り主張する猫かよ」
「どうして猫?」
「はじめての場所だと、あんた確認してから落ち着くじゃん?」
「初めては誰だって警戒します!」
「いや。警戒はしねぇだろ。緊張はするかも知れねぇが」
それもそうかもね。
苦笑を返すと、ふっと笑われながらドアを閉められる。
それから磯村さんは運転席に回ってきて、シートベルトを装着すると、車のエンジンをかけた。
「兄嫁さん、掃除すごいね」
「まぁ、シート外して洗うとは思わなかったな。つーか、よく乾いたな」
「確かに」
「ところで華」
「はい?」
「お前、かなり人見知りだな?」
……気づいていなかったのか。