強引男子にご用心!

「達哉って、そんな堂々と人前でいちゃつく奴だったか?」

すぐ近くで冷静な声がして、慌てて振り返ると、磯村家兄と、磯村家嫁が困ったような顔をして立っていた。

「え……ぇえと……」

「買い物終わったのか?」

慌てる私に反比例して冷静な磯村さん。

……そうか。
そうだよね。
磯村さんは会社でも“いちゃつける”人でした。
それを目撃しても、しれっとしてる人でしたとも。

忘れてましたよ。
ええ、まったく。

「ああ。こっちは終わったよ。達哉たちは……終わったか?」

「目的は終わったかな。後は飯食って帰るくらい」

ちらっと視線が合って、そういえば、お昼に肉まんを頂いたキリだったことを思い出す。

「うちもそうするかな。一緒に食えるなら食おう」

そう言って、視線は私に集まった。


…………そうね。

たぶん、私が一番問題なのね。


「隣の席とスペースがあれば大丈夫だと思う。衛生面は飲食店ならクリアだろうが、大皿料理はアウト」

磯村さんが、条件をだし、

「中華じゃなけりゃいいかな」

お兄さんが頷いて、お嫁さんが黙って館内地図を取り出す。

……やっぱり可愛いなぁ。お嫁さん。

色白で頬っぺたピンクで、小さくて可愛い。

小ささなら、私も小さいけれど。

何て言うか、私は可愛い性格じゃないし。

うん。知ってる。

だって会社では“お局様”と呼ばれているもの。
磯村さん直々にそう呼ばれているし。
いつもキツい口調を心がけているから、今更可愛い口調で話せるわけもなくて。

可愛い人なら、プレゼントも可愛い感じで“ありがとう”も言うんだろうな。

ニッコリ微笑んで“ありがとう”って……

ありがとう……


自分がそう言っているところを想像して背筋が寒くなった。

キャラじゃないわ~。

私がニッコリ微笑んで“ありがとう”だなんて、言ったら言ったでビックリされそう。

いきなりそんなことされたら、裏に何かあるんじゃないかと勘繰るわ~。

私なら、きっと勘繰る。


「おい、こら華子」

「え? 私?」

磯村さんを見上げたら、軽く睨まれた。

「他に華子がいるかよ」

「ありそうで、あまりない名前よね」

「あの。華子さん。なま物は召し上がれますか?」

ひょいっと可愛い顔が目の前に見えて、一気に血の気が引いた。


ち、近い近い近い────────────!


「うわっ」

ズサッと思いきり後退って、右手が繋がれたままの磯村さんも巻き込んだ。

「あ。女性相手もダメなんだ」

お兄さんがそう言って、お嫁さんを慌てて引き戻す。

「ごめんなさい。達哉くんがベタベタしているから、人は大丈夫なんだと思ってました」

「不意討ちは駄目らしい」

不意討ちでも、大丈夫な時と駄目な場合がある。

会社内では、いつもそれくらいは想定の範囲内。

それでもびっくりするのに。

そ、それに、

「磯村さんとベタベタなんてしてません!」

「え……」

「いや、十分だろう?」

夫婦の視線が、繋がれたままの手に向けられる。
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