強引男子にご用心!

そんな感じでご飯を食べ終わって、お店を出ると磯村兄弟は車の事で何か話始めた。

車は色くらいしか解らないし。

背の高い兄弟の後ろ姿を眺めていたら、それに気がついたらしい兄嫁さんがゆっくりと近付いてきた。

「これくらいなら平気ですか?」

気を使ってか、二歩くらい離れた所から話しかけてくれる。

「あ。はい。大丈夫です」

「さっきは、すみませんでした。潔癖症でも色んな症状がありますから、不用意に近づいてしまって」

可愛い顔で微笑むから、私も笑顔で首を振る。

「気になさる事はないです。いつもの事ですから」

「いつもの事……です?」

「普段は、気合いを入れれば素手で触れますから」

「気合い……」

「それに、会社では潔癖症の事を隠していますし」

「会社務めされているんですか?」

会社務めするでしょう。

しないで引きこもっていられな……


ああ、そうか。
そう言えば、部屋から出るだけでシャワー浴びるほど、だったかな。

「潔癖症は……治りましたか?」

「そうですね~。未だに掃除魔ではあるんですが、昔みたいに、全てが汚ないとは思わなくなりました」

へぇ。

「昔から、だったから、達哉くんにはよくいじめられて……」

「昔から……ですか?」

「ああ。幼馴染みなんです。悠哉くんと達哉くんはお隣さんで、小さい頃から遊んでくれて」

「ああ……なるほど」

「潔癖症だって知ってるのに、達哉くんにはいじめられて、泣かないように頑張っても、よく泣かされました」

そう言いながら、兄嫁さんは首を傾げる。

「だから、達哉くんにいじめられたら言って下さい! 悠哉くんに言って、懲らしめてもらいますから」

可愛い顔のまま、怒ったような顔をする兄嫁さんだけど。


うん。
多分、何かが違う。

磯村さんは、確かに意地悪だし、キレやすいかもしれないけど、決定的な意地悪はしない。

と、言うか、実は優しい。

それは確かに、ベタベタ触ってくるし、キスしてくるし、口は悪いけれど……。

本気で私が嫌がる事はしてこない……そんな自信がある。

確かに、女性を泣かせたい衝動がある……らしいけど。


「…………」


ああ、何だか嫌だ。

何だか違う。
ううん。違わない。

もしかして、もしかすると、気にしないで気になっていた事。


その答えが目の前にいるんじゃない?
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