強引男子にご用心!

歯切れの悪い磯村さんて珍しい。

結構、言いたい放題のくせに。

私も人の事は言えやしないけれど、磯村さん程じゃないよね。

言いたい放題って言っても、言えない事だって、聞きたい事だってたくさんあるけれど。

聞きたいけれど、聞きたくない事だってあるし。

ああ、本当に私は磯村さんが好きなんだな。

今更だけど、今だからそう思う。

だって、どうでもいい人なら、構わなければいいだけだもの。

構わなければ、気にしなくてもいいもの。

いつからか、なんて知らない。

羨ましいなんて感覚は無かったけれど、最初に見たときから?

そんなのは解らない。

好きなんだと自覚したのは最近で、最初はイラつかせる人だった。

そう……ね。

イライラしたなら、離れればいいだけの話で。

離れればイライラしないで済んだはず。

だけど、磯村さんは相当しつこかったと思うのね。

こっちのことなんかお構いなしで、嫌だったけど嫌じゃなかった。

解ってる。

素直じゃないのは百も承知してる。

支離滅裂で、どうしていいかは解らないけれど。

考えがまとまらないのが余計にイライラを増長させる。


「先輩ぃ」

「何か?」

経理部のドアを開けかけて、千里さんに呼び止められた。

「……先輩。磯村さんと何かありました?」

……なんて、心配そうに首を傾げている千里さんは、若くて可愛い。

「……どうして、私が磯村さんと何かあったと思うの」

「え。だって、さっき磯村さんが先輩探してましたし。私、資料保管室ですって教えました……し」

私の状況をリークしてるのは貴女か!

「ぇえと。怒ってます? 先輩」

「…………」

相当怖い顔をしていたらしい、千里さんはひきつって、それでも健気に笑顔で一歩下がった。

まぁ。気を付けろって言われてたわよねえ。

「気にしなくてもいいわ。それで、何か用?」

「はい。月イチさんのことで広報が取材したいそうです」

「はい?」

「先輩の趣味とか、好きなものとか、聞いてこいと言われました」

「…………」

い、嫌だ。

絶対嫌だ。

どうして取材?

どうして私?

「とてつもなく嫌そうですねぇ」

「当たり前です! どうして私が取材対象になるの」

「最近、先輩は色々と目立ってましたしぃ」

「今はもっと話題の人がいるでしょう!」

「まぁまぁ、先輩そう言わずぅ」

「……解ったわ」

「え。解ってくれたんですかぁ!?」

「ノーコメントと伝えておきなさい」

そう言い捨てて、総務部のドアを開けて入った。

ただでさえゴチャゴチャしてるのに、構っていられませんから。


って、

そうだよね。

今まではこんな感じだったのに。

それがどうして今みたいになったのかな?

考えても解らないけれど、答えは意外な所から返ってきた。
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