強引男子にご用心!
少し遅くなった夕食時。
「そりゃあ、お前って以外と面倒見がいいからだろう」
煮魚を食べながら、磯村さんが楽しそうに言う。
「ツンケンしてても答える事は答えるし、答えれない事ないし」
「ずっと総務部だし。それって当たり前じゃない?」
「お前の当たり前が誰にでも通用するわけじゃねえよ。まぁ、俺も悪いんだろうけど」
「磯村さんが? 何かあった?」
「最初のうち、どれもこれも全部、俺はお前に問い合わせてただろ。それ見てて“伊原先輩は何でも答えられる”人だと認識されたらしい」
「……総務部内部の事なのに、よく知ってるわね」
「逐一報告魔がいるって言っただろ」
「千里さん?」
磯村さんは顔を上げ、それから少しだけ視線を反らす。
「バレたか」
バレましたとも。
無言でご飯を食べていたら、小さな笑い声が聞こえた。
「なんだ。焼きもちか?」
「違います! そんなじゃないです」
「焼きもちだろ。でも、弁解するなら俺から聞いた訳じゃねえからな」
「……そうなの?」
「なんだったかな。総務部と飲み会やった時に、流れでそんな感じになった」
「へー?」
「つーか。俺があんたの連絡先聞いたら、誰も知らなかったってオチだった」
「…………」
課長か主任なら知ってるわよ。
じろっと見ると、磯村さんはニヤニヤしてるし。
何だかイライラする。
「それなら私に聞けば良いじゃない。他の子に連絡先聞くって変よ」
「変じゃねえよ。あの時はお前に嫌われてたじゃねえか」
そうかもしれないけど。
でも、何だかあの時も“他の子とラインしているんだ”って、もやもやした気が……。
「あ……」
「何だよ」
「あ、えーと。うん」
「うん、じゃ解んねえよ」
うーん。
そうね。そう言われれば納得。
「私、嫉妬するみたい」
「は?」
「私は連絡先聞かれてないのに、他の子と連絡しあってるって聞いて、もやもやしたし」
磯村さんはポカンとして、
「……結構前の話だな」
「そうね。結構前の話だわ」
「それで終わらすんじゃねえよ」
「え? どうすればいいの」
「まぁ、寂しかったくらい言え」
「寂しくは……なかったかな?」
「華は華だよな」
……私以外になりようがないじゃない。
ご飯も食べえ終わり、またスポンジをあわあわにしながら食器を洗う。
泡は気持ちいいよね。
そうして洗っているうちに、磯村さんは煙草の箱を手に持ちながら、ソファーで足を組んでいる。
帰ってきたら、私に気を使ってシャワーを浴びてくれる磯村さん。
煙草を吸うのも我慢してくれているのは知っている。
「吸っても大丈夫よ」
「煙は平気か?」
「……そうね。煙はバイ菌じゃなきと思うのね?」
「臭いを嫌がる女も多いけどな?」
そう言って、煙草を取り出して火をつけた。