強引男子にご用心!

少し遅くなった夕食時。

「そりゃあ、お前って以外と面倒見がいいからだろう」

煮魚を食べながら、磯村さんが楽しそうに言う。

「ツンケンしてても答える事は答えるし、答えれない事ないし」

「ずっと総務部だし。それって当たり前じゃない?」

「お前の当たり前が誰にでも通用するわけじゃねえよ。まぁ、俺も悪いんだろうけど」

「磯村さんが? 何かあった?」

「最初のうち、どれもこれも全部、俺はお前に問い合わせてただろ。それ見てて“伊原先輩は何でも答えられる”人だと認識されたらしい」

「……総務部内部の事なのに、よく知ってるわね」

「逐一報告魔がいるって言っただろ」

「千里さん?」

磯村さんは顔を上げ、それから少しだけ視線を反らす。

「バレたか」

バレましたとも。

無言でご飯を食べていたら、小さな笑い声が聞こえた。

「なんだ。焼きもちか?」

「違います! そんなじゃないです」

「焼きもちだろ。でも、弁解するなら俺から聞いた訳じゃねえからな」

「……そうなの?」

「なんだったかな。総務部と飲み会やった時に、流れでそんな感じになった」

「へー?」

「つーか。俺があんたの連絡先聞いたら、誰も知らなかったってオチだった」

「…………」


課長か主任なら知ってるわよ。

じろっと見ると、磯村さんはニヤニヤしてるし。

何だかイライラする。

「それなら私に聞けば良いじゃない。他の子に連絡先聞くって変よ」

「変じゃねえよ。あの時はお前に嫌われてたじゃねえか」

そうかもしれないけど。

でも、何だかあの時も“他の子とラインしているんだ”って、もやもやした気が……。


「あ……」

「何だよ」

「あ、えーと。うん」

「うん、じゃ解んねえよ」

うーん。

そうね。そう言われれば納得。

「私、嫉妬するみたい」

「は?」

「私は連絡先聞かれてないのに、他の子と連絡しあってるって聞いて、もやもやしたし」

磯村さんはポカンとして、

「……結構前の話だな」

「そうね。結構前の話だわ」

「それで終わらすんじゃねえよ」

「え? どうすればいいの」

「まぁ、寂しかったくらい言え」

「寂しくは……なかったかな?」

「華は華だよな」

……私以外になりようがないじゃない。

ご飯も食べえ終わり、またスポンジをあわあわにしながら食器を洗う。

泡は気持ちいいよね。

そうして洗っているうちに、磯村さんは煙草の箱を手に持ちながら、ソファーで足を組んでいる。

帰ってきたら、私に気を使ってシャワーを浴びてくれる磯村さん。

煙草を吸うのも我慢してくれているのは知っている。

「吸っても大丈夫よ」

「煙は平気か?」

「……そうね。煙はバイ菌じゃなきと思うのね?」

「臭いを嫌がる女も多いけどな?」

そう言って、煙草を取り出して火をつけた。
< 131 / 162 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop