強引男子にご用心!
そうだな。
煙草の煙を嫌がる人は多いよね。
確かにそれはそうだと思うし、好きだとは言いがたいけれどね。
食器を洗い終わって、フキンで拭き終わって、重ねながら首を傾げる。
でも、そんなに嫌な臭いでも無かったりするし。
どちらかと言うとチョコレートみたいな臭いで。
キスした時にも、微かに煙草の味が……
って、
あ、味って、何を思い出してるんだ私!
キスした記憶を、思い出すとか。
何だか恥ずかしい人じゃない?
しかも、味って……
どれだけイタイ人なの?
「何やってんだ、お前」
しゃがみ込んでいる私を磯村さんが見下ろして、煙草の灰を灰皿に落としている。
「灰皿なんてあったんだ」
「そりゃな。煙草吸う奴は常備してるだろう」
どこに隠してあったのかと思ったけど、キッチンに置いてあったんだ。
そんなことを考えていたら、磯村さんもしゃがみ込み、目線が同じ高さになる。
「お前って、思ってた以上に秘密主義だよな」
「へ?」
「解りやすい時と、解りにくい時があって困る」
「…………」
そりゃあ、私が秘密主義なのは見え見えじゃない?
潔癖症だって、まわりには隠してるわ。
と、言うか、あれやこれや秘密の一つや二つ、誰だってあるでしょうよ。
磯村さんにだって、秘密くらいあるでしょう?
きっとあると思うんだけど。
黙って見ていたら、何故か頭をグリグリ撫でられた。
「あ、あの?」
意味が解らないけど、磯村さんは何も言わずにソファーに戻り、煙草を消した。
……何だかなぁ。
立ち上がってリビングを振り返り、テレビをつけた磯村さんを眺める。
すっきりと整理整頓された部屋。
水瀬曰く“モデルルーム”のような生活感のない私の部屋と、とてもそっくりな磯村さんの部屋。
今まで考えた事はなかったけれど、男の人の部屋って、もっとゴチャゴチャしているものらしい。
それを考えたら、磯村さんの部屋って普通じゃないかもしれない。
確かに、私が出入りするようになってから、掃除は私が勝手にしてるけど。
壁に掛かっているものはカレンダーのみ、ソファーとローテーブルとテレビがあるだけの部屋。
最近、私が座る時用にクッションが増えたくらい。
だいたい、ティッシュボックスがビテオラックにしまわれている部屋はまれだと思う。
うちの実家しか、参考材料がないけれど、うちの母は食卓にデテンと置いていた。
それが嫌で嫌で仕方がなかったけれど……
「磯村さんもきれい好きよね」
「はぁ? 俺が?」
シンクを磨きながら頷く。
「俺が……つーか、華子が勝手に掃除してるからだろ」
「男の人の部屋って、みんなこんな感じなの?」
シンクの洗剤を水で流して、それからフキンで拭いてから微笑む。
よし、こんなものでしょう。
「……兄貴の部屋はゴチャゴチャしてっかな。葛西の部屋は書斎にしか見えねぇし、山本の部屋はオタク部屋だし」
「オタク部屋?」
イメージするのは、アニメキャラがたくさんの部屋。
「あいつは写真が好きだからな。写真だらけの部屋」
「へ、へえ」
言いながら、磯村さんの隣に座った。
「俺のは……ある意味で癖、か。うちで遊ぶときは俺の部屋だったし。潔癖症だったしな、カナミは」
突如として飛び出してきた名前に固まった。