強引男子にご用心!

磯村さんが髪に触れ、それから指に絡ませて、少しだけ引っ張るから、ちらっとだけ視線を合わせる。


「……ふーん?」


ふーん?

ふーん?て、何ですかね。


「お前、葛西からどこまで聞いた?」

「はい?」

「今のは解りやすかった。どこまで聞いた? 話によっちゃ葛西を締め上げねぇとなぁ?」

ニッコリ微笑んでいるけど、

目が……

目が笑ってないけど?


「ど、どうして葛西さんが出てくるの?」

「ああ、上手にはぐらかしてくれたよな? だけどなぁ。俺は葛西とは付き合い長いんだ」

「う、うん」

「例え好きな女に言われたからって、あいつは滅多に謝らねえよ」

葛西さん。
私は葛西さんの人となりを知らないけれど、ここまで言わしめる葛西さんっていったい?

と、言うか、何か

「怒ってる?」

「まぁな」

「な、なな何故」

「お前が何も言わねえから」

「いや。だって、私は磯村さんから何か聞いた訳じゃない……し」

「人から聞いたなら、本人に聞いてこい。一人で考えてんじゃねぇよ」

「で、出来ないわよ!」

「なんで」

「私に言ってこないって事は言いたくないからでしょう? 言いたくないって事は、教えたくないんでしょう?」

「別になんとも思ってないから、言わないだけかも知れないだろ」

「だって……!!」

だって、立ち直ったんでしょう!?

立ち直ったと言われたのなら、それだけ落ち込んだって事でしょう?

それを私がズカズカ聞いて良いわけが……


「まだ言わねえのか」

「…………」

磯村さんは不機嫌そうに言って、次にニヤリと笑った。

「俺が原因なんだろ? だったら、まずは俺に聞くのが筋だろうが」

「何がどう、何の原因」

そう言いながら、ゆっくり近づいてくるのはどうして?

「お前がたまに、めちゃくちゃ黙りこんでんの、気づかないと思ってる?」

「そ……んなこと……」

ちょ……っと?

ちょっとちょっとちょっと!?

「ちょ……っ」

近すぎる!

慌てて身体を引いた瞬間に、腰をさらわれてソファーに押し付けられた。

こ、これって、いわゆる“押し倒された”ってこと?

「ま……っ」

「待ったし、何度か聞いた」

「だ、だからって、こんな……」

「こんな?」

ニヤリと笑う磯村さんは、鼻先すれすれで、

「それで? どうしたい?」

「ど……うって」

「葛西は何をお前に言った? 聞きたいことがあるなら言ってやる。言わないなら……」

言わないなら……?

「泣くまで攻める」

「や……」

首筋に触れる唇。

ゾクゾクと走り抜ける感覚は、嫌な感触ではないけれど、

だけど……


嫌よ!

嫌……

こんなのは嫌。


「身代わりなんて嫌!」

ピタリと磯村さんの動きが止まった。
< 133 / 162 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop