強引男子にご用心!
磯村さんが髪に触れ、それから指に絡ませて、少しだけ引っ張るから、ちらっとだけ視線を合わせる。
「……ふーん?」
ふーん?
ふーん?て、何ですかね。
「お前、葛西からどこまで聞いた?」
「はい?」
「今のは解りやすかった。どこまで聞いた? 話によっちゃ葛西を締め上げねぇとなぁ?」
ニッコリ微笑んでいるけど、
目が……
目が笑ってないけど?
「ど、どうして葛西さんが出てくるの?」
「ああ、上手にはぐらかしてくれたよな? だけどなぁ。俺は葛西とは付き合い長いんだ」
「う、うん」
「例え好きな女に言われたからって、あいつは滅多に謝らねえよ」
葛西さん。
私は葛西さんの人となりを知らないけれど、ここまで言わしめる葛西さんっていったい?
と、言うか、何か
「怒ってる?」
「まぁな」
「な、なな何故」
「お前が何も言わねえから」
「いや。だって、私は磯村さんから何か聞いた訳じゃない……し」
「人から聞いたなら、本人に聞いてこい。一人で考えてんじゃねぇよ」
「で、出来ないわよ!」
「なんで」
「私に言ってこないって事は言いたくないからでしょう? 言いたくないって事は、教えたくないんでしょう?」
「別になんとも思ってないから、言わないだけかも知れないだろ」
「だって……!!」
だって、立ち直ったんでしょう!?
立ち直ったと言われたのなら、それだけ落ち込んだって事でしょう?
それを私がズカズカ聞いて良いわけが……
「まだ言わねえのか」
「…………」
磯村さんは不機嫌そうに言って、次にニヤリと笑った。
「俺が原因なんだろ? だったら、まずは俺に聞くのが筋だろうが」
「何がどう、何の原因」
そう言いながら、ゆっくり近づいてくるのはどうして?
「お前がたまに、めちゃくちゃ黙りこんでんの、気づかないと思ってる?」
「そ……んなこと……」
ちょ……っと?
ちょっとちょっとちょっと!?
「ちょ……っ」
近すぎる!
慌てて身体を引いた瞬間に、腰をさらわれてソファーに押し付けられた。
こ、これって、いわゆる“押し倒された”ってこと?
「ま……っ」
「待ったし、何度か聞いた」
「だ、だからって、こんな……」
「こんな?」
ニヤリと笑う磯村さんは、鼻先すれすれで、
「それで? どうしたい?」
「ど……うって」
「葛西は何をお前に言った? 聞きたいことがあるなら言ってやる。言わないなら……」
言わないなら……?
「泣くまで攻める」
「や……」
首筋に触れる唇。
ゾクゾクと走り抜ける感覚は、嫌な感触ではないけれど、
だけど……
嫌よ!
嫌……
こんなのは嫌。
「身代わりなんて嫌!」
ピタリと磯村さんの動きが止まった。