強引男子にご用心!
「身代わりだ?」
「わ、私は可愛くないし、素直でもないし、若くもないし……け、潔癖症ってだけだわ」
「おー……それは知ってる事だな」
あっけらかんと言って、磯村さんは私の上から避けてくれた。
「……だいたい、葛西の野郎が何を言ったか解ったような気がしてきた」
「葛西さんは何も言ってないわ! ただ……」
「ただ?」
腕を組み、不機嫌そうに睨まれた。
「立ち直ったとか……呟いただけ」
磯村さんは盛大に溜め息をついて、それからむすっと黙り込んだ。
それからおもむろに立ち上がり、冷蔵庫から麦茶を注いできて、コップを突きつけてきた。
「まぁ、落ち着いてくれ」
起き上がり、コップを受け取る。
……思うんだけど。
それは無理じゃない?
今の今で落ち着けとか言われても、落ち着けるはずがないじゃない。
「私……帰る」
言った瞬間睨まれた。
「この状態で帰すはずがないだろうが」
「だって……」
「あんたの想像力を甘くみてた。しかも、ある程度、的を射ているから始末に負えない」
……私の想像力?
「よくそんだけのヒントでカナミに行き着いたな」
「…………」
「最初から話してもいいが、面倒だからある程度は割愛するけど、俺が昔カナミを好きだったのは事実だな」
「そ……そう」
「好きな女に触れないってのは、結構しんどいんもんだぞ、お前」
ちらりと見られて、居心地が悪くなる。
うん。
同意は出来ないけど、わかる気がする。
解りはするけど、無理な時は無理な話だと思うのね。
だって、相手は潔癖症。
しかも部屋を出るだけでもシャワーを浴びたり、財布ごとお金を洗っちゃうような強者……
「なのにあいつは、あっさり兄貴と結婚しやがって。まぁ、今なら解るんだけど」
いや。私は全く解らないけど。
「つまり、俺が片想いして、その女が兄貴と結婚して……少しだけ荒れて、派手に女をとっかえひっかえしてた時期があったんだ」
「うん……?」
派手に……って、磯村さんはいつでも派手だったよね。
会社でもイチャイチャするくらい派手で、噂も派手だった気がするんだけれども。
「まぁ、相手から誘われれば拒みはしなかったけどな? 一応、あんたと遭遇した時はある程度は落ち着いていた頃だ」
「……そう」
「だから、葛西のやつもポロッと言ったんだろう。一番荒れてる時を知ってんだから」
「そうなの……」
「だけど、これは過去の話で、今の話じゃねえ」
……う、うん?
「だいたい俺とカナミじゃ、触れなかったって段階で、もうダメだろ」
「うん?」
「それに、今はあんたに惚れてんの。解ってんのか?」
解ってんのかって言われても……
「だ、だって……磯村さん、兄嫁さんとぎくしゃくしてたし。過去の話を引きずる人なんてたくさんいるもの」
「誰と比べて言ってんだよ」
えーと。
私?
「しかも、俺はいつもあんな感じだ」
「いつもあんな感じ?」
「何でワザワザ好きでもねぇ女に、会社でもないのに愛想よくしないといけないんだよ」
呆れたように言われて、衝撃が走った。
もしかして、もしかして……だけど。
アレで私には愛想振り撒いていたつもりなの?
たまに優しいけれど、ほとんど口は悪くて、意地悪笑顔ばっかりで、いじめられてばかりいたような記憶しかないんだけど!?
それでも愛想振り撒いていたと言うのなら、私は思いきり否定するわよ?