強引男子にご用心!

「はいはいご馳走さま。じゃ、私の相談に乗ってよ」

水瀬もお弁当をパクつき、磯村さんは露骨に嫌な顔をする。

「あのな、女医さん。何が悲しくてダチが言い寄ってる女に、俺が相談にもちかけられねぇとなんねえんだよ」

確かに、私でも変だと思う。

「だって華子に相談しても、ねぇ?」

ねえ?

「そうね、恋愛ごとは全く役にたたないし」

「今は、ちゃんと恋愛出来てるじゃねぇか」

え。
私と磯村さん?

「あまり参考にならないと思うけど」

「どういう意味だよ」

そう言って、お弁当から玉子焼きを摘まんで食べるから、睨み付けた。

「素手では止めてって言ってるでしょう? せめてつまようじ使って!」

「他の食材には触ってねぇし。慣れろ」

「平気ならこんなこと言わない!」

「そんなもんじゃ死なねぇ。じゃなかったら俺の分も作れ」

「手作り弁当を催促する男は初めて見たわね」

水瀬が頭を抱え、磯村さんは私を指差す。

「そりゃあんた、冷凍食品だらけの弁当を、手作りしましたってニッコリ押し付けがましく渡されるより、華子の手作りなら間違いねぇだろ」

手作りお弁当ねぇ?

「もらったことあるの?」

「まぁ、それなりに?」

「モテモテ?」

「いや。だからそれなりに」

「ふーん?」

「昔の話だろうが、気にするな」

頭をグシャグシャにされて慌てて離れた。

「止めて、今日はブラシ持ってきてないのに!」

「減るもんじゃないだろ?」

そういう問題じゃないから!

だいたい、最近はどうした事か髪を乱したがるよね?

髪を結っていたら外したがるし、指に絡めたがるし、なんなの?

「どうして最近、ぐちゃぐちゃにしたがるのよ」

「んー? 説明しない方がいい気がするが」

「は?」


磯村さんはニヤリと笑って、小さく耳元で囁いた。


「乱れた姿も、かなりいい」


その言葉に思い出したのは、数日前の夜の出来事。

慌ててお弁当を磯村さんに押し付けると両手で顔を覆った。


どうしようか、どうすればいいか、混乱して、引き出される感覚に戸惑ったあの日。

戸惑っているうちに、どんどん磯村さんは進んでしまうし、痛いって言っても“我慢しろ”としか言わないし。

予備知識くらいはあったから、それなりに痛いとは聞いていたけど、あんなに痛いとは思っても見なかったし。

だけど、そのうちに痛いだけじゃなくなって……


そんなもろもろを思い出させる、磯村さんの囁き。


今は真っ昼間ですよ、エロ鬼畜!


「赤飯炊いた方がいいのかしら」

「女医さん。下世話だろ」

「そんなあからさまにほのめかしておいて何を言うの」

「何かあったら、こいつの相談乗れるの女医さんしかいねぇし」

「え。避妊はちゃんとしてる?」

「水瀬!」

叫んだけれど、磯村さんはちらっと私を見て手を振り、それから水瀬に向き直った。

「まぁ、華子はこういう奴だし、俺もこんな奴だからな。何かあった時には、友達で女医のあんたは支えになってくれるだろう?」

「あら……あらあら。当人目の前にして磯村さんは私に任せるわけ?」

「任せるわけじゃねぇよ」

なんか、蚊帳の外に置かれてる。

何だか面白くない。

面白くないから、軽く磯村さんにジャケットを引っ張ったら、びっくりした顔で振り返られた。
< 137 / 162 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop