強引男子にご用心!

「どうした?」

「どうもしない」

「いや?  そうはならねぇだろ」

「なります」

磯村さんの困惑顔に、水瀬の含み笑い。

解っている。
これは、いわゆるアレよ。
嫉妬よ。
しかも、構ってくれないから、と言う子供じみた理由の嫉妬よ。

構われ過ぎても困るけれど、構われないと寂しいって理由の嫉妬よ。

そんなの説明したくないわよ。

黙っていたら、また頭をグシャグシャにされた。

「なんだ。甘えてんのか」

「違いますー!」

「華子ははぐらかす時は敬語だな」

「違うったら!」

「ちょっと、そこのお二人さん。いちゃつくならここじゃない場所でしてくれない?」

いちゃついてないわ!

立ち上がりかけたら、磯村さんに肩を押さえつけられ、強制的に座り直される。

「食え」

ぽいっと未開封のコンビニおにぎりを渡されて、すっかり空っぽになったお弁当箱を眺めた。

磯村さんて、お喋りしながらでもご飯食べれる人なんだよね。

「……いただきます」

一度パッケージをウェットティッシュで拭いてからペリペリ剥がして、きちんとおにぎりを作ると一口食べる。

コンビニのおにぎりって、お米がしっかりしているの多いよね。

衛生面で心配なければ、コンビニおにぎりも食べられる。
だけど、朝と夕方のコンビニは混むから行きにくい。

「磯村さん、ためらいなく華子に触りますよねぇ」

水瀬がしみじみ呟いて、お茶を飲んだ。

「嫌な時は嫌だと言われるらしい」

「言われたことあります?」

「……言葉ではまだねぇな」

たまに言わせてくれないからね。

「まぁ、なんだ。デートに誘うなら休日にしておけってくらいは言っといてやるよ」

「お願い。さすがに8回も断り続けて気が引けてきたから……」

そんな風にお昼休憩が終わり、総務部に戻ってみると、パタパタ走り回っている千里さんを見つけた。

「……どうかしたの?」

「先輩! とうとう会議室の暖房器具がだめになっちゃいました!」

「え。明日中には取り換えの予定だったのに」

「今、主任が電気ヒーター探しに備品保管室に向かったんですけど、ないって……どこに貸し出ししていたか、リストも無くなってて」

「え。備品室にはないわよ。去年、地下倉庫にしまったはず。リストは紙じゃなくて、共有フォルダの……」

「さすがだ伊原さん」

主任が褒めてくれたけど、去年そうしたのは課長なんだよね。
確か通達あったし、前回、暖房の調子がおかしくなった時にチェックしただけなんだけれど。

慌ててストーブを運びに行った、男性社員たちを見送りながら首を傾げる。
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