強引男子にご用心!

人間、色んな事があると忘れるから。

私だって、人と関わり初めて……と言うか、磯村さんと関わり初めてから、些細な部分を忘れたりすることが増えた。

と、言うか、何かしようとした時に、話しかけられたりするからなんだけど。

「私、先輩の引き出しを一度見てみたいですぅ」

「どうして」

「棚割りのリストもそうですけどぉ、先輩って、色んなことリストアップしているから……」

「自分で作った方が、どこに何があるか覚えるわよ」

「あ。それもそうですね。頑張ってみます~」

ウェットティッシュでキーボードを拭き、パソコンのパスワードを解除して、それから棚に向かった千里さんを振り返った。

素直だなぁ。
私にもあれくらい素直な時期ってあったのかしら。

あったのかも……知れないけど。
私の場合はきっと、どこかひねくれているよね。
自分だって解っているし。

解っているなら直せるんだろうけれど……
今更、色々と照れが入るよね。

照れないようにするには、どうすればいいのやら……


「慣れればいいんですよ~」

ギョッとなって振り返れば、千里さんがにんまり笑っていた。

「先輩。こころの声が漏れてましたよ~?」

「そ、そう?」

「いいことありましたかぁ?」

「……今は仕事中です!」

ぷいっとパソコンに向き直ると、メールチェックを始める。

あ、支社から問合せメールが来てる。

ああ、この間の鹿に飛び出されちゃった人のお礼メール。

マメな人はマメだよね。

そんなことを思いながら、静かに近づいてきた千里さんを振り返った。

「何?」

「そう言えば、広報から社内報用の先輩の写真下さいって連絡が~」

「…………」

どうして直接言ってこないの、広報部のメンツは……

「嫌だと申し上げました」

「それがしつこいんですよ~」

「あ、僕、広報に一人ダチがいるんで、僕からも断りますか?」

牧くんが顔を上げ、それから首を傾げる。

「いくら広報でも、無断で掲載出来ないでしょうけど」

「そうねぇ。無視してもいい?」

「無視してもいいんじゃないですかね? あまりしつこいようなら、主任に言うのも手段ですし」

「……面倒だわ」

「それか、磯村さんに頼めばいいんじゃないですか?」

磯村さん?

「何故?」

「だって伊原さんの噂がなかなか消えないのって、ほとんどあの人のせいでしょ」

「…………よく解らないけれど」

「営業部じゃ有名らしいですよ。結構ハデに遊んでいた磯村さんが、ハデにのろけているとか」

「あー。私も知ってます~。営業部の女子が諦めたって話もあります~」

え。ちょっと待って?

「彼女って……」

「先輩ですよねぇ?」

後輩全員の視線を浴びて、顔から火が出るかと思った。
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