強引男子にご用心!
「…………はめたわね?」
「はめてねぇし。だいたい、お前ってイラつかねぇと本音なかなかだしてこねぇし」
やられた。
また言わなくていいことまで言った。
ストンとソファーに座り直す。
それからウェットティッシュを取り出して、ビールの缶を拭いて一口飲んだ。
磯村さんて、こーゆー人だよね。
そうなのよね。
「まぁ、なんだ。俺が思うに、あんなにコソコソしなくても、堂々してていいんじゃないか?」
「何を根拠に言ってくるのよ。私は傷つけた相手に、今更会いたくなかったわよ」
「そうか? お前が綾瀬を傷つけたって言うなら、綾瀬だって十分暴言吐いてるみたいたがな?」
「私が普通なら……そうはならなかったかもしれないじゃない」
だって、綾瀬くんは優しかったもの。
優しくしてくれた……
それを踏みにじったような気がしてならないのよ。
だって、人から嫌煙されてるような人間と、告白されたからって簡単に付き合おうってなる人は珍しいと思うの。
それだけでも、既にハードルが高いわ。
私にしてみてもハードルは高いわけだけれど、あの頃はまだ希望があったもの。
手を繋げるようになったんだし、そのうち平気になるのかも……って。
実際、今は磯村さんに触られても結構平気だし。
平気になってきているし。
「やっぱりお前はバカだな」
あっさりひどいことを言われている気がしないわけじゃないけれど。
「だって、今は私……磯村さんに触られても平気になってきてるんだもの」
「ああ。最近は本当に身構えなくなってきてるな」
「磯村さんに自分から触っても、きっともう平気だもの」
まだちょっと、ほんの少しは不安だけど。
「どうしてあの時にも出来なかったことが今出来るんだろうとか、あの時に出来ていたら、綾瀬くんにあんな事を言われなくてすんだかも、とか……」
「やっぱり、お前もしっかり傷ついてんじゃねぇか」
傷つかない筈がないじゃないか。
自分は異常な人間なんだと言われて、改めて色々と考えもした。
好きな人にも触れないなら、きっと私は誰とも“お付き合い”できないだろうと諦めた。
諦めていたのに、今更付き合えるように……触れるようになって。
「ねぇ。触ってもいい?」
「ん? 手か?」
「ううん。手じゃなくて」
ビールの缶を置いて立ち上がると、磯村さんはあぐらのまま不思議そうな顔をしてる。
「また顔か?」
磯村さんの前に膝をついて、首を傾げる。
「ううん」
「……優しくしてね?」
言われて吹き出した。
「バカじゃないの」
「いや、お前、前の時もそう言って思いきりひとの顔……」
抱きついてみたら、言葉が止まった。
ほら。
平気だもの。
抱きついて、こんなに密着しても大丈夫だもの。
「……少し無理あるなぁ」
「え。無理してないけど」
「いや、そうじゃなくて」
ひょいと膝をさらわれて、そのままあぐらの上に横抱きにされた。
そのまま背中を撫でられて、抱きついたまま肩に顔をくっつける。
しばらくそうしていたら、磯村さんが髪をまとめていたクリップを外して、指に巻き付けはじめる。
「なあ、ひとつきいていいか?」
「うん?」
「だいたいは、前に聞いていた話が詳しく聞けたって感じなんが」
「うん」
「会いたくなかったってのも解ったが」
「うん……」
「どうしてそんなにゆらゆら不安がってんのか解んねぇ」