強引男子にご用心!
「私は、今、幸せだと思うのね」
「ん? ああ……そう?」
「他の人が触れなくても、磯村さんなら触れるし。こうしているのも、幸せだと思うのね」
だから、
「綾瀬くんに再会して……と、言っても、まだまともに会ってもないけど、あの当時の幸せだと思っていたこととか、最後はひどいことになっちゃった事とか……」
そんな嫌な思い出や、諦めた気持ちとか、そんな事を思い出して……
「ああ、なんだ。俺たちの先の事が不安になったわけか?」
そう、かな。
きっと、そうだと思う。
いつまでも幸せではいられないことを知っているから。
何かが始まる、と言うことは、終わりも必ずあることで。
終わってしまった時の事を考えたくはないけれど……
そう思うと、こうしていられる事が、とても幸せで、同時にとても悲しくなる。
「まぁ、人生、いつ終わりがくるかなんて解らねぇしな」
「うん……」
「だからって、死ぬ時の事を考えてたってしょうがねぇだろ」
「…………は?」
「ん?」
がばりと身体を離すと、
「ぅお……っ」
慌てて支えられて、抱きしめ直される。
「私は、死ぬ時の事を考えたわけじゃないんだけど」
「まぁ、長生きすれば、いろいろとあるだろうが、それはそれだろ」
「…………」
ひ、人の話を聞いてる?
聞いてないよね?
ぽかんとしていると、磯村さんは小さく笑って、それからキスをする。
「異常にきれい好きな女に、俺みたいな男なら、丁度いいだろ?」
「え……あの」
「他の人間触れないなら、俺で妥協しておけ」
「あ、あの」
「考えた事もなかったか?」
考えた事って……。
え?
うん……何を言ってるか。
「あれだろ? 有名なところで“死が二人を別つまで”ってやつ?」
「…………まさか」
「考えてなかったら考えろ」
「う、うん」
「と言うか、拒否は受け付けてねぇからな?」
え。
それはどうだろう。
考え込むと、笑われた。
「まぁ、俺のことだけで頭いっぱいにしてな。俺は相当独占欲の強い男だから」
「……それは。なんとなく気づいてた」
「おー……なら、話は早いじゃねぇか」
「早くない早くない」
「それで、返事は?」
「今のどこに考える時間があったっていうの!?」
「学習能力ねぇな。それが俺だろ」
……ええ。
そうですね。
それがアナタだ。
そんな事を考えながら、無言で抱きしめ直す。
「このままベッドに行ってもいいか?」
「……き、聞かないで」
そんな事を言いながら。