強引男子にご用心!
オマケ:入籍前日
(いつだろう。とりあえずは入籍前日・笑)
******




「A会議室の鍵の返却宜しく」

チャラチャラと、会議室の鍵を指にぶら下げてやって来たのは、少し不機嫌そうな磯村さん。

普通、営業の人が直接会議室の鍵を持ってこないと思うのだけど、磯村さんは持ってくる。

「事務の人に頼めばいいでしょうに」

呆れて鍵を受け取ったら、微妙に困った顔をされた。

「おー……頼んだら、用事があるのは俺だろうって突っ返された」

勇気があるな、その営業事務。

真面目な顔をして眼鏡を上げた。

「……そんな人がいるんですか?」

「まぁ、一部の営業事務には評判悪いからな、俺は」

へらっと笑いながら肩を竦め、磯村さんは眉を上げる。

昔々、営業の事務の女の子に囲まれた経験のある身としては、信憑性に欠ける話だけれど。

「……いろんなタイプがいるんだよ。そんなに大勢にモテたら、華子にとっては大変だろ?」

「会社では、伊原さんと呼びましょうか?」

きりっとしていうと、後ろで牧君が吹き出した。

「明日から、伊原さんも磯村さんになるくせに」

総務部には色々申請出したから、すでに公然の事だね。

出した瞬間に、課長には凝視されたし、皆には拍手されたよね。

だから『仕事中です!』って叫んだら、めちゃめちゃひやかされたし。

「もちろん、明日からは磯村さんと呼んでもらいます」

磯村さんは何とも言えない顔をして、それから何か考え始めた。

あの顔は悪巧みをする時の顔だ。

身構えたら、ニッコリ爽やかに微笑まれる。

「じゃ、私生活では達哉って呼べよ?」

「え? あなたじゃダメ?」

磯村さんは笑顔のままで固まって、牧くんは後ろで爆笑して、さすがに主任に叩かれていた。

ダメかなー。
あなたって、何だかいいと思ったんだけど、違うのかな。

「いやー。伊原さんて、たまに面白いんですよねー」

「それがたまに困るんだろうが」

何故か磯村さんは、牧君と意気投合しているし。

一連の出来事を見ていた主任が、腕を組みながら苦笑した。

「夫婦でアナタって、何だか余計に親密だよな。今時は言わないんじゃないかなぁ?」

「そうですか? 医務室の水瀬さんは葛西さんを貴方って呼んでますけど」

男性たちは押し黙り考え込む。

水瀬と葛西さんの事も、総務部では公然の認識。

磯村さんが、微かに苦笑した。

「いやー。あれは上から目線の“貴方はどうしてそうなんだ”って意味合いの“あなた”だろ」

何だかとっても納得できるところが、水瀬の恐ろしさかもしれない。







2015/8/19 ~ 2015/10/1
黒猫ノア内拍手お礼使用
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