強引男子にご用心!
「あ。磯村さん。ここです」
声をかけると、磯村さんは驚いたように立ち止まり、マンションを見上げた。
「……ここ?」
「はい。あのぅ……着替えるなら、シャワーも浴びていいですか?」
無表情で見下ろされて、一歩下がる。
「どれくらいかかる」
「30分……くらい?」
「OK。何号室?」
「405ですけど……」
「あんた素直だな。答えるか普通」
「……このまま帰っていいですか」
「いいぜ? 押し掛けてもいいなら」
「ここでお待ちください」
バタバタと自転車置き場に自転車を置き、エレベーターに乗り込むと、走って部屋までたどり着く。
きっかり30分で支度を終わらせて降りていくと、何か書類を眺めていたらしい磯村さんが顔を上げた。
「遅い」
「きっかり30分ですよ。待つのが嫌なら帰ればいいじゃないですか」
「それじゃ礼になんねぇだろうが」
……礼に?
礼って、なんの礼?
「こないだ無理言って会議室開けてもらっただろうが。あんたには別で礼するって言った」
「…………」
そりゃ、言ったかもしれないけれど。
単に飲み会をするための口実なんだと思っていたから……
「案外、律儀なんですね」
「会社なんて一人で仕事してる訳じゃねぇんだから、たまには感謝も必要だろうが」
「…………」
「それに、律儀って言ったら、あんたも相当律儀だと思うぞ? 待ち合わせに律儀に来たし、着替えろって言ったら着替えて降りてきたし」
「や、約束は約束だし」