強引男子にご用心!
「磯村さん。今日は外回りよろしいのでしょうか?」
エレベーターが来ないから、行きは階段で行ってしまおう。
「今日は企画室と会議なので」
非常階段までもついて来るんですね。
「……そうですか。総務部に用があったんじゃないんですか?」
「いや。別に……」
別にって、何しに来たのよ貴方。
ともかく階段を降りるために、台車を畳もうとしたら、
「あ。たんま」
急に近づいて来たから慌てて飛び退く。
「運んでやるよ。こいつはそんな気のきく奴じゃねぇし」
「そ、そう言う事は言ってからにして」
「ああ、悪ぃな」
何事もなく台車を畳んで降りて行く磯村さんを睨み付け、困惑している企画室の人と目があった。
「……仲がいいですね」
のほほんと言われて、首を振る。
「め、滅相もない」
「いやぁ。そうか。前にも磯村と話してましたよね?」
何かに気づいたように顔を輝かせる彼を見て、首を傾げる。
「…………?」
前にも……と言われても、最近は何かと構ってくるから……
「そうそう。女性に対して口悪いから驚いた記憶があります」
そう言って近づいてくる。
「おい、山本。そいつに近づくんじゃねぇぞ?」
「え。あ。ゴメン、そうなの?」
何がどうなの?
でも、ありがとう磯村さん。
思いながら、山本さんの名前に思い当たった。
この間、営業部女子に囲まれた時にいた人か。
スッキリした顔で階段を降りて行くと、磯村さんに睨まれた。
「何ですか……」
「アイツ、天然だから気を付けろ」
アイツって、山本さん?
「お局だろうが何だろうが、気にせずのほほんと近づいてくるからな?」
……無頓着なのね。
無頓着な人はやりにくい。
冷たくあしらっても、キツイ事を言っても無頓着に近づいて来る。
「気を付けます」
頷いて、台車を返してもらった。