強引男子にご用心!
「はい。ですので、少し休ませましたら早退させますので」
水瀬が内線の受話器を置く。
それをぼんやり眺めてから、ふぅ……っと溜め息をついた。
「ごめんね」
「いいわよ。普段の行いがいいのね。疑われずに了承されたわ。だいたいそれで戻ったら何事かと思われるし、実際、私も思ったわよ」
眼鏡もなくなっていて、涙でボロボロの顔。
引っ掻けて破れたストッキング。
実はリボンタイも無くなっていて、ボタンも第二まで外されていた。
バレッタも無くなっていて、髪が肩を覆っている。
襲われた後みたいだ。
いや、ある意味で襲われたんだけど。
「しっかしまぁ~。噂は聞いてたけれど、思った以上に手が早い早い」
「問題視するところはそこじゃない」
「まぁ……ねぇ?」
水瀬は診察用の椅子に座り足を組んだ。
「あんたの潔癖症を解っててベロチューかましてくるんだから、確信犯だ」
「どんな顔して明日から出勤すればいいの」
「そこは普通で良いわよ」
普通でいいの?
「一応、大人の女なんだから、キスごときで狼狽えないの」
解りたくないけれど……
「……解った」
「とりあえず、よく失神しないでここまで来れたと思うよ? 進歩じゃない」
進歩かな。
進歩と言うより……
「失神したら、何されるか解らなかった」
「そこまでか……磯村さん」
水瀬は知らないから。
磯村さん、給湯室だろうが資料保管室だろうが気にしない人だもの。
誰が通るか解らないような、そんな廊下でキスするような……
キス、二度目なんですが。