強引男子にご用心!

確かに水瀬が言うように28にもなったらキスごとき、なんだろうな。

例え初キスであろうとあるまいと、キスはキス。

キスした所で死なない。


死なないけどさぁ……


「手、洗いたい」

「手? 唇じゃなくて?」

「磯村さんを突き飛ばしたから」

「あんたからっ!?」


私から……。

まさか磯村さんが私を突き飛ばす訳がないじゃないの。


何故、そんなに驚くの。


「えー…。そっかぁ、なるほどねぇ。なるほどなるほど」

「……何が」

「私には真似できないわぁ」

関心したような水瀬に、眉を潜める。

「だから、何が」

「いやいや、タラシの磯村だから」

「意味解らないから」

「いいよ。そのままでいなさいよ」

「うん……?」


まぁ、よく、解らないけれど。

とりあえず、誰かが来る前に帰ろうかな。

どうせキスごときで、早退しちゃうような奴ですし。


「少し落ち着いた」

「そうみたいね。少し目が赤いくらい」

「解る?」

「誰かに聞かれたら、熱があるとでも言いなさいよ。もっとも……」


水瀬はじろじろと私の全身を眺めて、肩を竦める。


「伊原華子だとは解らないでしょうよ」

「私もそう思う」


いつもの私とは違うものね。

眼鏡かけてないし、制服のリボンタイはないし、髪下ろしてるし。

いつもの私とは大分違う。


「磯村さんは解るだろうから、ロッカーまで隠れて行くといいよ」

「……色々ありがとう」

「私はこう見えてお医者様だから、敬ってくれてもいいわよ?」

「遠慮しておくわ」

お互いに小さく笑って、それから軽く手を振って医務室を出た。

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