強引男子にご用心!

「……あんたなぁ。そんな気がしてたが、いい加減にしろよ」


急に背後から声が聞こえて振り返った。


ドア……開きっぱなしだったかしら。

いや、閉めたと思う。


そこには、不機嫌そうな磯村さん。

ツカツカ入ってくると、スーツのジャケットを脱ぎ、腕捲りを始めた。


「避けろ」

「…………」

「持ってろ」

ジャケットを突きつけられて、ジャケットと磯村さんを交互に見る。


「手袋してんだろ。心配しなくてもクリーニングしてある」

指先でそっとジャケットを持ち、少し離れれば、磯村さんが段ボールを移動し始めた。

「総務部にだって男手あるだろうが」

「…………」

「あんた女なんだから、これくらいはやらせるべきだぞ」

「…………す」

「言いたいことはハッキリ言え」

「もっと時間かかります」


磯村さんは、呆れた様な顔をして、段ボールを床に置いた。
それから、キャビネットを振り返る。

「どれだけ伏魔殿な訳?」


思わずへらっと笑ってしまった。


「決算期しか整理しないんですよ。普段は他の業務もありますから」

「あっそう。だからって、女のあんたがする事でもねぇだろうが」

「私もたまにサボります」

ここに来たがる人はいないから。

「ありがとうございます。避けていただけますか?」

微かに視線が合わさって、ジャケットを受けとると磯村さんは避けてくれた。


……やっぱり、磯村さんは普通に接してくる。

そうだな。やっぱりキスごとき、ということなのだろう。

キャビネットをの鍵を開けて、決算報告書を探し始める。

これでもない。
あれではない。

こっちかな?

と、探していたら……



「どうだったよ?」



………………何が?

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