強引男子にご用心!
夢は見ない
「伊原さん。企画室の退職者にお渡しする書類って、どれを渡せばいいんでしたかぁ?」
「3番の棚の右から2つ目のバインダーに挟んであるわ。相手が後藤幸子さんなら、確定拠出に関する書類も説明してあげてください」
毎日の業務は業務で決して暇じゃないけれど、毎日の事だからその忙しさには慣れてくる。
「伊原さん。人事の久住部長のお母様が亡くなられたそうで、お花代をどうするかって経理から内線が……」
「去年、佐熊部長のお父様が亡くなられた時の領収書控えがまだ経理から戻ってきていないから、それを参考にしてくださいとお伝えして」
「伊原さん。今日の15時にA会議室は空いてましたか?」
「今月の会議室管理は松山君です」
「伊原さぁん」
「さっきから何なのあなたたち。聞いてばかりで」
振り返ると、笑いながらの後輩たち。
「伊原さん。聞けばなんでも答えてくれるから」
答えませんから。
少し脱力すると、溜め息をつきつつ引き出しから青いファイルを取り出した。
「聞かないで覚えなさい。新卒じゃあるまいし」
パラパラめくって備品リストを取り出して、それをコピーすると一枚後輩のデスクに乗せる。
「今日は勤怠管理なの。よろしく」
「伊原さんの虎の巻もらった」
「単なるリストよ」
「そんなの作っていたんですね」
「効率的に仕事しなさい」
ずり下がる眼鏡を指であげてから睨んだら、さすがに後輩たちも黙りこんだ。
よし。
静かになった。
勤怠管理は大変なのよ。
確かに分担してるけど、お給料に直結するから気が抜けない。
見れば今日の勤怠管理が割り振られた子達は、この騒ぎにも不参加でパソコンに向き合っている。