強引男子にご用心!
「そうなるわよね。まぁ、どうしたものかね?」
「解らないわよ。露骨に嫌な顔をしても通じないんだもの」
「気苦労が増えただけね。あんたの場合は」
その通り。
だから、気心も潔癖症も知っている水瀬の近くは安心する。
「ところで、磯村さんはどうしてる?」
「え?」
「最近あまり噂は聞かないから」
「ああ……」
そうね。
そうかもしれない。
私のお隣さんだと気づいた、あの日からほとんど会ってない。
そもそも、総務部関係は3階だし。
営業部は5階だし。
会わなければ会わないで、普通はそんなに接点が綿密と言うわけでもないし。
お隣さんだとしても、出勤時間が違えばそんなものだと思う。
最近は内線もないし。
「さぁ?」
「さぁ。で、終わらすんじゃないわよ。あれだけつきまとわれてたのに」
「あっちも仕事が忙しいんでしょ。新しいプロジェクトがいくつか立ち上がっているし」
総務にいると、結構いろんな事が解ったりする。
会議が頻繁な部署はどこだ、とか、残業が多いのはどこか、とか。
「暇な時に遊んでただけでしょ」
「キスしておいて?」
「さぁ。挨拶かわりじゃないの? だって……」
他の人とは絡み合ったりしていたし、28でキスごときなら、32歳の磯村さんにしてみれば、たかがキスでしょうよ。
「犬に噛まれたと思って忘れる事にしたの。どうせ、暇潰しにからかってきただけだろうし、磯村さんは他にも付き合いはあるでしょうし」
「付き合いねぇ」
「そうそう」
絡み合っちゃうような付き合い。
私の柄じゃない。