強引男子にご用心!

「何かありましたか?」

営業部に総務部の制服姿は目立つ。
すぐに声がかけられて、首を傾げる。

「磯村さんはいらっしゃいますか? 先程、医務室まで運んで頂いたらしくて」

「ああ、総務部の伊原さん。倒れたって聞いたけど、大丈夫?」

「あ。はい。大丈夫……です」

あまり近づかれなかったら大丈夫。

「磯村なら、総務部に届け物してから2、3件回ってくるって出ていきましたよ。帰りは……」

と、ホワイトボードに書かれた直帰の文字に肩を竦める。

「ありがとうございます」

「無理しないで下さいね~」

曖昧に頭を下げて総務部に戻ると、見つけ出したファイルは部長の手に渡っていた。

「磯村君が持ってきてくれたよ。倒れたんだってな、伊原君。もういいのかね」

「はい。問題ありません。申し訳ありませんでした」

「無理はしないように」

「はい」

席について落ち着きを取り戻せた。

うん。
何も変わらない、変わらない。

そりゃそうよ。
世界がひっくり返った訳でもないんだし、キスをしただけ、キスを……

何故、あの男は急にそんなことをしてきたんだろう。

邪魔したから?
私が、その、邪魔したから?

だって、私は悪くないわよ。
あんなところで盛っている方が悪いわよ。

あんな……


「伊原さん。朝に渡された書類……」

「そこに置いてあります」

「……どうも」

「お仕事ですから」

きびきび答えると、薄笑いを浮かべながら同僚は去っていく。

……これが普通の反応よ。

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