強引男子にご用心!
そんな理由でついて行くことになって、水瀬にお弁当箱を押し付けて医務室を後にした。
「……医務室の女医は美人って噂だったが、ありゃ美人なだけじゃないな」
呆れ半分、恐ろしさ半分という複雑な表情で医務室のドアを振り返る磯村さん。
「往診カバン持ってますから、下手な事を言うと本当に縫われますよ?」
見下ろされて苦笑される。
「医師免許は本当なんだ」
「産業医の一人ですからね。あれでも救急医経験者ですよ。今はもっぱらメンタルケア中心ですが」
エレベーターのボタンをボールペンで押して、磯村さんに見下ろされる。
「あんたが前向きな潔癖症な理由か?」
「……なんですかソレ」
前向きな潔癖症なんて聞いたことないわ。
そもそも、前向きなら気にしないでしょうよ。
気にならないなら、潔癖症にはならないでしょうよ。
エレベーターが来て乗り込むと、ふっと思い出したように吹き出された。
「今度は何ですか」
「あんたの名前、華子って言うんだ」
「…………」
華子で悪いか。
子供の頃は“ババァ”とか、“トイレの華子さん”とか、さんざんからかわれたわよ。
それが何か?
「あー……からかわれた口だな」
察しないで欲しい。
どちらかと言うとスルーして欲しい。
でもきっと、それが磯村さんなんだろう。