強引男子にご用心!

「それにしても、営業部は最近忙しそうですね?」

「ああ。まぁ、企画室と合同のプロジェクトも始動したからな。どちらにせよ、やることはかわらねぇよ」

「残業も増えてますけどね」

「睡眠は減ったがなぁ」

ボヤきながらエレベーターは1階について、磯村さんは余所行きの爽やか営業マンの顔をする。

……て、どれだけ外面いいんですか。

エントランスを抜け、受付の前を通り過ぎ、顔を見合わせている受付の子達に気がついた。


また、変な噂にならないといいけれど。


「最近、伊原さんの方はいかがですか」

「何がです?」

「忙しいですか?」

「総務部は変わりないですかね。時期でもないですし」

もう少しすれば採用関係で人事あたりからバタバタになるけれど、それだって毎年の事だし。

株主総会は、だいたい秘書課が中心に動くから総務部はお手伝い。

毎年のことならば、普段のそれと代わり映えしない。

一番忙しいのは、源泉徴収時期が一番忙しいけれど。

毎年、必ず一人はいるんだよね。
生保の控除証明なくして泣きついてくる人だとか。

でも、それだって当たり前の事で、想定内の範囲内。

そう思えば、溜め息混じりの声が降ってきた。

「あんた麻痺してんな~」

「何がですか?」

「あんたのとこの奴らは大変だって愚痴ってたぞ?」

「やつら?」

「この間、総務と営業で飲み会やった時に、ラインID教えられたし」

「……へぇ」

「そいつから、毎日の様に愚痴ラインが送られてくる」

「……そう」

磯村さん……うちの子達とラインしているんだ。


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