強引男子にご用心!
それぞれの普通
静かに仕事をして静かに退社する。
仕事もちゃんとこなすし、聞かれた事にもきちんと答える。
後輩達のフォローにも、たまにならまわるように心掛ける。
そんな毎日を送っていたら、
「先輩? 最近疲れてませんかぁ?」
無頓着な千里さんに、そんな事を言われて首を傾げた。
「そう? 普段と変わりないけれど」
「そうですかねぇ~? でもなんか覇気がないって言うか~。何だか違うって言うか~?」
「それより、語尾は伸ばさないって、言ったでしょう」
「はぁい」
「間も伸ばさないの」
「はい」
千里さんは無頓着だけれど、素直でもあるから、話していて気楽かもしれない。
誰とでもなんら変わりなく話しかける彼女は、身構える事もないから。
「伊原さん。磯村さんから書類について聞きたいって内線入ってます」
呼ばれて振り返り、内線の受話器を持ち上げると、光っている内線番号のボタンを押す。
「代わりました。伊原です」
『ああ、伊原さん。労災申請の書類についてなんですが、治療費の金額について解らないんです……あの時、支払ってないですし』
「名前と印鑑と治療日さえ記入頂ければ、その項目はこちらで記入して処理しますので問題ないです。治療費は直接会社に請求されてますので」
『ああ、そういう処理になるんだ。あいにく、こんな申請する奴はまわりにもいないんで……』
「そうですか」
『…………伊原さん?』
「はい」
『……元気か?』
「はい。問題ないです」
『……そう、ならいいけど』
「では、書類お待ちしてます」
磯村さんが内線を切るのを待って、受話器をウェットティッシュで拭き取る。
顔を上げると千里さんが近づいてきた。
「先輩。医務室行った方がいいです」
「医務室?」
「絶対どこかおかしいですって」
「別に、調子は悪くないけれど」
「いいですから。行ってきて下さい」