強引男子にご用心!

解らないけれど、千里さんに言われるままに医務室に向かう。

医務室では水瀬が何かの書類にサインをしている最中で、私の顔を見るなり不思議そうに首を傾げた。


「どうかした?」

「ううん。どうもしない……けれど、後輩が行けって」

水瀬は腕を組み、眉をしかめると診療用の椅子を示す。

「……で?」

「さぁ?」

「さぁじゃないわよ。私にはどうもしてないって顔には見えないけれど」

「顔……?」

顔がどうかした?

毎朝鏡は見ているわ。

今朝は顔色も普通で、体調も普通で……

「誰かに触られた? それとも、磯村さんにちょっかいだされた?」

言っている意味が解らないけれど。

水瀬も千里さんも、私がどうかしていると思っているらしい。

「何かストレス溜まってる?」

「ストレス……」

「自分で気づいていないなら、医者って言うより友人として言わせてもらうけれど、何も無いって顔じゃないのよ」

「そう?」

「目が死んでる。あんたは結構解りやすく表情変わるのに、それが一切ない。あんたをここに送り出した後輩を褒めてあげたいわよ」

「意味が解らない。確かに最近は後輩のフォローにも回るから、触らないように気が気じゃないけれど、私は何も……」

「気づいていないから危ないんでしょう」

断言されて、首を傾げた。

人に触れないように、気を付けているのは普段と変わりないわ。
触れると嫌悪感が酷くなるから。

昔は服すら触れるのさえ嫌だったけれど、最近は直接肌に触れない限りは気にしないようになった。

握手だって、気合いを入れれば出来る。

何かされた訳でもないし、した訳でもないし、解らないけれど。


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