強引男子にご用心!
日常化



毎朝、自転車通勤の私は、家を早めに出るのが日課。

天候が悪いと自転車には乗らないから、空いている時間帯の電車に乗るために、もっと早く出掛ける事になる。


「おはよう。早いな」

鍵を閉めている時に声をかけられたのは、ある意味偶然だった。

見ると、バッチリスーツ姿の磯村さん。


「おはよう……ございます」

磯村さんこそ早いよね。

私は始発狙いだから当然としても、磯村さんは違うと思うのだけど。

「磯村さんも早いですね」

「おー……。残業できねぇなら、早くに出社するだろう」

当然のように言うけれど、あんまり当然には感じない。

営業成績トップクラスは伊達ではない……と、言うことか。

「遊んでて売り込み出来りゃ世話ねぇよ。それなりに実績とデータが必要ってもんだし」

眠そうに、あくびを噛み殺しながら言うから苦笑する。

「あんたは……電車か?」

「さすがにこの雨じゃ……」

窓辺から見えた景色は雨一色。

ただでさえ灰色の町並みが、暗く感じた朝だった。

「冬も自転車なのか?」

「冬も始発ですね」

「地下鉄は遠いしなぁ」

そんな事をいいながら、エレベーターに乗り込み、

「会社じゃないんだから、エレベーターは奥に乗った方がいいぞ?」

「え?」

当然とパネルボタンの前に立つ私に、磯村さんが呟いた。

「後ろにどんな野郎が乗り込んでくるか解らねぇだろうが」

「あ……はい」

「あんた、そういう事、迂闊だな」

「はぁ……」

「まぁ、つけ込むけど」

今後は気を付けよう。

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