強引男子にご用心！

そんな風に話しながら駅につくと、私が切符を買っている間に磯村さんは缶コーヒーを買っていた。

「朝、弱いんですか？」

「昨日の休みに持ち帰りの仕事してて、寝るのが遅くなった」

「ところで、早朝出勤の申請出してませんよね？」

金曜日に出された申請書類は、労災申請のみだった。

改札を抜けてホームに立つと、磯村さんは無言で私を見下ろす。

「あんたもだろ？」

「私は時間つぶしてから出社します」

「……申請したら残業と変わらないだろ。だから、裏技があんだよ」

「警備員さんに話は通してあるんですね」

「そういう事」

話には聞いた事がある。

本来なら、早朝出勤の申請を提出して、出勤を前倒しにするのが原則。
ビル自体が閉まっていて開かないから、早朝出勤者には前もってセキュリティカードを貸し出される。
土日祝日も同じ扱い。

もちろん、早朝出勤のデータは残る。

だけど、警備員さんは24時間体制でいるから、こっそり裏口から入る人もいる。

これならデータは残らない。

「秘密な？」

「あまり大っぴらにしないで下さいよ？」

「了解了解」

電車がホームに入ってきたので乗り込み、人もまばらな車両を眺める。

「座らないのか？」

「遠慮します」

「じゃ、ついたら起こして」

座って目を瞑る磯村さんを見下ろした。


……何、私に言ってるの？