強引男子にご用心!
「でも、あんたは好意をもってるわよね?」
「…………」
何を根拠に言い始める!?
「だって、キスされても逃げ出せたじゃない」
「逃げる段階でダメでしょう」
「キス出来たって事が凄いじゃない」
「だって磯村さん突然なんだもん! 不意打ちなのよ!」
「子供じゃあるまいし、宣言してキスしないわよ」
……そうだね。
『キスしてもいい?』なんて、あまり聞かないかな。
あ。でも、あれ?
そう言ったら。
「二度目は聞かれたかも?」
「なんて?」
「あまりよく聞こえなかったけど、気を失うなよ、とかなんとか」
「………まぁ。ある意味、言われてるのね」
うん。
言われてるね。
言われたからって、どうなるものでも無いけれど。
水瀬は溜め息をつくと、小首を傾げて私を見る。
「キスは気持ち悪かった?」
気持ち悪いか……
そんな事は考えなかったかも。
「熱いなって、思ったかな」
「熱い?」
「二度目は、答えたって……磯村さんに言われた」
「はい?」
「私、二度目は、舌、絡ませたらしい?」
お茶を飲んでいた水瀬が吹き出した。
「そこまで生々しく聞きたいわけじゃないから!」
「あ。うん。確かに生々しいね」
水瀬はぐったりとしながらも、吹き出したお茶をフキンで拭き取っている。
それから溜め息。
「……それが答えなんじゃないの?」
「答え?」
「私が言うとあんたは結構鵜呑みにするから、少し自分で考えてみなさい」
「……わかった」
頷いてみたけれど、どうしようもないよね……とも思う。
例えば、私が仮に、磯村さんの事が好きだとしても……よ?
行動に移すつもりはないなぁ。
“好き”だ、と言う原動力で動けるのは子供の頃だけ。
世の中は大好きな物だらけで、何をしていても楽しくて、寝る暇も惜しんで楽しめた。
そのうち恐いものが出来て、好き嫌いが出来てきて、我慢する事を覚えて……
大人になると何でもできると思っていたけれど、実は大人になると出来ないことが増えていく。
出来ないことが増えると、諦める事も上手くなる。