強引男子にご用心!
彼は外面いいから、皆がいるところでは構ってこないしね。
そのかわり、サボれないけれど。
接点さえなくなれば、そのうち構うのも飽きるでしょ。
そんな事を考えながら、書類を作成していたら。
視界の端に千里さんが入ってきたから飛び退いた。
「び……びっくりさせないで」
「す、すみません。そんなに驚かなくてもぉ」
千里さんも目を丸くしているから、軽く咳払いしてから姿勢を直す。
「何か用?」
「磯村さんと喧嘩しましたぁ?」
「……してない、けれど」
「磯村さん、とても不機嫌そうに先輩見てましたよぅ?」
それは知らない。
だって見てないもの。
と言うか、見ないようにしている。
「知らないわよ。だいたい磯村さんと喧嘩する程、私は親しくないもの」
「そうですかぁ?」
そうですよ。
確かに、よく顔を合わせていたけれど、ちょっとした事で会わなくも出来たし。
つまりはそれくらいの接点なワケで。
帰りさえ気を付けていれば……本当に会うことはないのだけれど。
「いつまで人の事を避ければ気がすむんだ、おまえは」
……マンションの前に立っているのは、普通じゃないと思うな。
「避けてません。ただ会わないだけの話でしょう」
自転車を置いて、バックを持つと磯村さんを睨んだ。
「よけてください。帰りたいんです」
お互いに睨みあったけれど、無言でよけてくれたから、マンション内に入って止まったままのエレベーターに乗り込んだ。
「話がある」
「私はありません」
「俺にはある」
「ないです」
「よし。解った」
……解った?