強引男子にご用心!

「どうせ俺の柄じゃない。もうやめる」

「そ、そう……」

憮然とした顔から視線をそらして、エレベーターが止まると、逃げ出すように降りた。

降りた瞬間、腕を捕まれる。


「…………っ」


「直接触れたわけじゃない。まぁ、気絶してもらった方が、運びやすそうだが?」

ニヤリと笑う磯村さん。

合わさる視線は笑っていない。

笑っていないどころか…………


どこか邪悪。


「は、離さないと……」

「暴れても大声あげてもいいぞ?」

ぐいぐい引っ張られて、足が引きずられる。

待って、ちょっと…………

「解った! 話を聞くから、乱暴はやめて!」

「乱暴は…………いや、解らねぇな」

冷たい笑顔のまま、磯村さんはドアを開けると中に私を押し込んだ。


慣れない人のうちの臭い。

微かに漂うタバコの臭い。

腕を離されてよろめくと、背後でガチャリと鍵がかかる音がした。


頭が真っ白で、パニックで、呆然として磯村さんを見上げると、

「で、このまま運ばれるのと、自分の足で入るのと、どっちを選ぶ?」

いや。ここまで来ると拉致だよね!?

どちらかと言うと拉致監禁だよね!?

そしてそれは脅迫だよね!?

「よし、運んでやる」

「自分で歩きます!」

慌てて靴を脱いで、磯村さんの部屋にお邪魔する事になった。


< 76 / 162 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop