強引男子にご用心!

人のうちに上がったのは何年ぶりだろう。
それこそ、物心ついた時には潔癖症になっていたし、行ったとしても数える程度。
親戚のうちに行ったら、気絶をよくしていた。

磯村さんが、電気のスイッチを入れて明るくなる。

間取りはうちとは逆転。
リビングには二人掛けのソファー。
その前にはガラステーブル。
ノートパソコンと、何かの雑誌と新聞紙。
シンプルなテレビラックの上にはもちろんテレビ。

……全体的にモノトーンで、シンプルな部屋。


「ソファーに座っていいぞ」

「…………」

「心配しなくても、カバーは新品」

「………………」


ジャケットを脱いでいた磯村さんが、眉をしかめて首を振る。

「別に計画的に連れ込んだワケじゃねぇよ。今日も無視されたら話をしようとは思っていたが」

いや。うん。計画的に拉致したとは……
少ししか思っていなかったですよ。
さすがに。

「何か……飲むか?」

「お構い無く」

大人しくソファーに収まると、磯村さんも肩の力が抜けたように溜め息をついた。

「俺があんたを構いたいんだ。そこは諦めろ」

「…………」


諦める部分が、何か違う気がする。

固まっていると、キッチンの冷蔵庫から烏龍茶のペットボトルとビールを取りだし、ガラステーブルに置かれた。

「そんで、急にどうしたよ?」

プシュッとビールの缶を開けながら、磯村さんが急に切り出した。

うん。何だかいろいろ突っ込みたい。

どうしたって、私が聞きたい。

「急に一線引いたろ、おまえ」

「引くでしょう。食べるとかたべないとか、あんなこと言われたら」

「いやぁ、引くとすれば、泣かせたいって言った時だろ?」

それもそうかもしれない。

「色々遅ぇよ、おまえ」

苦笑されて、じっとビールを眺める。

眺めて、溜め息をついた。

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